たばこのにおいがする…分煙進める永田町周辺の喫煙室から扉が消えた?
受動喫煙対策を盛り込んだ改正健康増進法が4月に全面施行され、建物内が原則禁煙になる中、東京・永田町周辺の国会や自民党本部などの喫煙専用室に「異変」が起きている。分煙を進めるはずなのに扉が撤去された喫煙室が登場したのだ。現場を直撃した。
11月のある日。取材で衆院議員会館地下1階の会議室エリアの廊下を歩いて、ふと気づいた。たばこのにおいがする--そのエリアには喫煙室があるが、においを感じたことはほとんどなかった。不思議に思い、喫煙室の様子を見に行くと、喫煙者がビニール製の「のれん」をくぐって出入りしている。以前はスライド式の扉だったはずだ。においは、こののれんのせいだろうか--。
2018年7月に成立した改正健康増進法は、罰則付きの受動喫煙対策を盛り込んだ。学校や病院、行政機関などは「敷地内禁煙」で、屋内は完全禁煙とした。一方、飲食店や職場などは「原則屋内禁煙」として事業者に対策を義務付けた。ただし、「煙の漏れない喫煙専用室内」での喫煙を認めている。
国会議事堂や議員会館も原則屋内禁煙の対象だ。衆院事務局によると、衆院内は議員会館も含め52カ所の喫煙専用室が設置されている。
喫煙専用室について、厚生労働省令は技術的基準を定め、「出入り口で室外から室内に流入する空気の気流が0・2メートル毎秒以上」などの条件を満たすことが求められる。逆に、この風速条件を満たせば、扉は必要ない。
気流計測の際、扉のある喫煙室の場合、扉を開けた状態にしなければならない。扉を開放した状態よりも、「のれん」で開口面積を狭めた方が気流は早くなり、条件を満たしやすい。
衆院は今年、基準を守るために改修を実施した。
議員会館では同3月、約310万円をかけ、扉を撤去して開口部分と同じ幅のビニール製のれんを設置した。長さは床面からのれんの下端が10センチ程度離れるように作られている。
本館内の喫煙室はリース品で元々扉はなかったが、風速条件を満たすために、今年2月、開口部の両側にのれんが取り付けられた。いずれの喫煙室も設置完了時に、基準を満たすことを確認した。
衆院事務局によると、のれんの設置後、たばこの煙やにおいについての苦情は寄せられていないという。厚労省によると、「非喫煙者はにおいを感じるかもしれないが、そもそも喫煙専用室は中のダクトなどを通じて屋外に空気を吸い出す設備。そのため外から空気を取り入れる仕組みになっている」。つまり、喫煙室内の空気を押し出すだけの風の力が必要で、においの有無ではなく風速条件が重要だということのようだ。
ただ、自身もたばこを吸う自民党関係者でさえ「こののれんはあまり意味がないのではないか」との声を上げている。受動喫煙防止策の謎は深まるばかりだ。