学びと遊び、長寿の縁 男性・滋賀、女性・岡山 平均寿命1位 禁煙・減塩、県も応援
毎日新聞 2023/1/22 大阪朝刊 https://mainichi.jp/articles/20230122/ddn/041/040/011000c
長寿の秘訣(ひけつ)はどこにあるのだろうか――。厚生労働省が2022年12月に発表した都道府県別の20年の平均寿命で、男性は滋賀県が2回連続1位となった。女性は、前回(15年)2位だった岡山県がトップに立った。全体的には「西高東低」の傾向にあり、長寿県の生活習慣などから学ぶことがありそうだ。公衆衛生の専門家による分析や両県の取り組み、最近の行動調査などから解き明かしてみる。
都道府県別の平均寿命は5年ごとに発表されている。男性では前回、5回連続トップだった長野を抜いて初めて1位となった滋賀が首位を守った。2位の長野は2回連続だ。女性では、前回2位だった岡山が、1970年以来50年ぶりに1位となった。前回4位の滋賀は2位にアップした。
滋賀県は18年、「長寿のヒミツはこれだった!?」というタイトルのちらしを作成し、「たばこを吸う人が少ない」「多量飲酒(飲酒日に1日2合以上)をする人が少ない」「スポーツをする人が多い」「学習・自己啓発をする人が多い」「ボランティアをする人が多い」を挙げた。
根拠となる統計データはどうなっているのだろう。三浦克之・滋賀医科大教授(公衆衛生学)と一緒にみていく。
まずは、寿命に関係する病気だ。三浦教授は「都道府県間で比較可能な疾病別の死亡率(15年)をみると、滋賀の男性は脳卒中による死亡率と、がん全体の死亡率がともに最低クラスになっている」と指摘する。岡山の女性については「大腸がんによる死亡が2番目に低いなど、がん全体の死亡率が全国一低くなっている」と注目する。
次に生活習慣に着目する。一般的に全てのがんの約3割は喫煙が原因として説明できるとされる。滋賀県は20年以上、喫煙率低下に取り組み、16年の国民健康・栄養調査では男性の喫煙者の割合が最少となった。2位は奈良(今回平均寿命3位)だった。
生活習慣病の予防のため、全国で40~74歳を対象に「特定健診」が行われている。この問診の結果(厚労省・NDBオープンデータ)と平均寿命との関係を18年に滋賀県衛生科学センターなどが分析して論文にしている。男女とも喫煙の悪影響を指摘していて、さらに男性では、多量飲酒や高血圧、空腹時の血糖値の高さが重要な要因と示唆されると結論付けた。
社会的な行動も平均寿命と結びついている。滋賀大データサイエンス教育研究センターなどの研究では、平均寿命と相関関係(どちらが原因なのかは不明だが、偶然では説明できない関連性)がある行動に男女とも「趣味・娯楽」「学習・自己啓発・訓練」を挙げている。男性に限ると「スポーツ」が、女性では「ボランティア活動」が、それぞれ相関関係にあった。
では、社会的な行動を都道府県別にみてみよう。総務省の21年社会生活基本調査では、女性(15歳以上)の「ボランティア」の行動者率(10歳以上人口に占める行動者数の割合)は滋賀2位、岡山3位、長野12位だった。滋賀県健康寿命推進課は「琵琶湖の保全のため、女性らが展開したせっけん(使用)運動などの住民運動の歴史がある。地域のつながりが、地道な健康増進の活動にもつながっているのではないか」と推測する。
「学習・自己啓発・訓練」の行動者率では男性の平均寿命上位5府県が、神奈川2位、京都3位、滋賀7位、奈良8位、長野13位といずれも上位に入った。女性の平均寿命上位の府県も、京都3位、滋賀8位、岡山12位などの結果になっている。
男性の「スポーツ」行動者率は神奈川2位、京都7位、奈良12位、滋賀19位となっている。
平均寿命の「西高東低」の傾向も顕著だ(厚労省公表地図参照)。長野以東で上位10位内に入ったのは、男性は長野と神奈川しかなく、女性は長野のみとなっている。
三浦教授は「脳卒中は、食塩の過剰摂取によって高血圧になり、発症しやすくなる。そして、西へ行くほど塩分が少ない味付けだと言われている。喫煙率は、北へ行くほど高くなる傾向がある」と読み解く。
国民健康・栄養調査(16年)での塩分摂取量は、滋賀と岡山は男女とも下位10位以内に入っていた。
滋賀が「全国一の長寿県」となったことについて、三浦教授は「長年の禁煙対策とともに、男女とも減塩対策が進み、高血圧を予防できる環境になっているのが大きいのではないか」とみている。滋賀では、講習を受けた一般の「健康推進員」が、87年から自治会や町内会などでみそ汁の塩分濃度を測ってみせるなどの活動を実施している。
岡山の女性は少なくとも65年以来、今回含め2回のトップなど平均寿命が8位以内に入り続けている。
岡山県健康推進課は「長寿の要因は、さまざまな分野が関わり丁寧な分析が必要と考えている」とした。県内の取り組みでは、健康寿命の延伸の観点からボランティア団体「県栄養改善協議会」(64年設立、約6300人)が、県民にバランスを重視した食事や減塩などの啓発を行い、食生活の改善に力を入れてきた。また、ボランティア団体「岡山県愛育委員連合会」(55年設立、約1万2000人)が禁煙運動や各種健診・検診を受けるよう呼びかけるなどしてきたという。
三浦教授は「生活習慣の背景には、それを支える生活環境がある」とも指摘する。滋賀県が、国勢調査などから「失業者の少なさ」「所得格差の小ささ」「高齢単身者の少なさ」がいずれもトップレベルだとしていることも注目される。