「喫煙率全国ワースト」福島の法医学者が見た 異状死とたばこの関係

毎日新聞 2024/7/16  08:15 https://mainichi.jp/articles/20240711/k00/00m/040/065000c

 喫煙率が全国ワースト1位の福島県で、医師に警察への届け出が義務付けられた「異状死」と喫煙の関係の解明に取り組む法医学者がいる。福島県立医大医学部法医学講座准教授の西形里絵さん。自身が手掛けた解剖例を含め、近年福島県で解剖や検案が必要になったケースを分析したところ、たばことの深い関係が見えてきた。

解剖で見えた共通点

 度重なる受動喫煙でたばこが大嫌いになったという西形さんは学生時代、喫茶店や居酒屋に禁煙席を設けてもらうよう要望書を出し、設置が実現した店もある。飲み会の会場に一番乗りしては灰皿を片付けた。外科医から法医学者に転じ、これまでに手掛けた異状死者の解剖数は700件近くに上る。数多くの異状死者を解剖するうちに共通点があることに気付いた。その一つがたばこだった。

 異状死は、普通に病気で亡くなる以外の死に方のこと。医師法21条は、医師が死体に異状を認めた時、警察署に届け出なければならないと定めている。日本法医学会のガイドラインによると、交通事故や火災といった不慮の事故▽自殺▽他殺――による死亡や、死因が分からないケースが異状死に当たる。

喫煙率は県平均の倍

 福島県立医大医学部法医学講座では、事件性が疑われる死体の司法解剖を中心とした「法医解剖」を年間150件ほど(全県)、解剖せずに外見から死因や死亡時期を推定する「死体検案」を年間200件ほど(福島市と近隣市町村)を担当している。西形さんは、201723年の法医解剖と、1823年の死体検案を合わせた計1823人(男性1300人、女性523人)について、喫煙との関係を分析した。19歳以下と、喫煙の有無が不明の人は除いた。

 喫煙率は男性が537%、女性が216%、男女計が445%だった。厚生労働省の国民生活基礎調査によると、22年の一般成人(20歳以上)の喫煙率の全国平均は男性が254%、女性が77%、男女計が161%。福島県は男性が332%で全国ワースト1位、女性が105%で全国ワースト2位、男女計が214%で全国ワースト1位。西形さんが分析した異状死者の喫煙率は福島県の一般成人(同)の平均と比べると、男性が16倍、女性が21倍、男女計で21倍も高くなっていた。

 西形さんによると、異状死者の喫煙率が高くなる要因としては、自殺▽飲酒絡みの事件や事故▽精神疾患▽危険な労働環境▽違法薬物――などとの関係性が疑われるという。

重なるリスク、子への悪影響も

 たばこを原因とした悲劇は後を絶たない。80代女性が急性一酸化炭素中毒で死亡した住宅火災の原因は、息子のたばこの不始末だった。

 また、糖尿病が関わるケースが目立つ。たばこの不始末が原因とみられる住宅火災で死亡した70代男性は、糖尿病で週3回の透析を受け、アルコール性肝障害があった。紙巻きたばこと加熱式たばこを吸う50代女性は糖尿病を患っていたが、経済的な理由から通院が不定期で、家族からのLINE(ライン)が未読となり、寝室で倒れて死亡しているのが見つかった。

 子どもへの影響も深刻だ。1923年に司法解剖された16歳以下の50人のうち、62%に当たる31人の同居家族に喫煙者がいた。母親、3歳兄と入浴していた1歳男児は、母が腹痛でトイレに行っている間に溺死。父親はベランダで喫煙していた。

 また、1423年に法医解剖・死体検案された違法薬物使用者を見ると、男性21人は1人を除いて喫煙しており、女性7人全員が喫煙していた。

「社会的損失が大きい」

 福島県など喫煙率が高い地域について、西形さんは「子どもの親や周囲の大人が喫煙していれば、たばこの存在が当たり前になり、子どもが10代半ばで喫煙を開始し、そして親になり子もまた喫煙するという流れ。負の連鎖だ」と指摘。一般社団法人「Tobaccofreeふくしま」の事務局運営を担い、受動喫煙防止を呼びかける「イエローグリーンキャンペーン」などに力を注いでいる。

 今回の分析結果については、たばこを巡る問題の専門誌「禁煙ジャーナル」243月号に寄稿するなどして、警鐘を鳴らす。「喫煙は自殺、突然死、事故死、火災死、孤独死などへの影響が疑われる。受動喫煙の加害者にもなりうることから、喫煙者の方々には一刻も早く禁煙していただきたい。非喫煙者の方々には、『自分は吸わないから関係ない』ではなく、たばこは社会的損失が大きいと知っていただきたい」