「ゾンビたばこ」の害 実態把握し規制の強化を(社説)

毎日新聞2025/12/8 東京朝刊  https://mainichi.jp/articles/20251208/ddm/005/070/023000c

 「ゾンビたばこ」とも呼ばれる違法薬物「エトミデート」の所持や使用の摘発が相次いでいる。まん延を防ぐ対策が急務だ。

 麻酔や鎮静の作用があり、一部の国では医薬品として承認されている。だが適正に使われなければ、幻覚が現れたり全身にけいれんが起きたりして、死に至ることもある。香港、台湾などアジア各地で乱用が社会問題となっており、規制当局は症状から「ゾンビ」と名付けて警鐘を鳴らしている。

 沖縄県でも「笑気麻酔」と称して若者らの間で広まっているのが確認された。国は5月、医療目的以外での製造や所持を禁じる指定薬物に追加した。東京都や三重県でも所持容疑の逮捕者が出ており、インドからの密輸も摘発された。

 拡大の背景にあるのは、電子たばこで吸引できる手軽さだ。

 電子たばこは、味や香りを付けた液体(リキッド)を電気の熱で気化させ、その蒸気を吸う。リキッドにタバコの葉は使われていないため、日本ではたばこ製品ではなく雑貨として扱われる。小売店は年齢制限を設けているケースが多いが、未成年者が買ったり使ったりしても違法ではない。

 リキッドは自分で調合することもでき、エトミデートなどを混ぜても周囲は気づきにくい。においがなく、注射痕も残らないため、若者の違法薬物摂取の「入り口」になる恐れがある。

 電子たばこ自体の健康リスクにも、目を向ける必要がある。

 世界保健機関(WHO)の専門組織は、リキッドの香り成分などに使われる食品添加物を高温で熱すると、発がん性物質が生じると報告している。

 依存性があるニコチンが入ったリキッドも、個人使用目的の輸入は認められている。電子たばこが広まれば、喫煙のハードルが下がりかねない。未成年者の手に渡らないよう、国は対策を講じるべきではないか。

 まず実態を調べ、消費者への啓発や業界への指導を強める必要がある。市販されているリキッドを分析し、違法薬物の排除を徹底することも欠かせない。

 有害性が疑われる新たな薬物が次々と登場し、規制は後手に回りがちだ。被害を広げないための迅速な取り組みが求められる。