術前禁煙指導で手術延期が大幅に改善

5年間の指導効果を調査

2022年02月16日 05:00  medical-tribune  https://medical-tribune.co.jp/news/2022/0216544424/

 喫煙が周術期の呼吸・循環機能、予後に関連することは広く知られており、日本麻酔科学会の『周術期禁煙ガイドライン』では、術前4週間以上の禁煙が推奨されている。しかし術前禁煙が遵守できず、いったん入院したものの手術延期のために強制退院(入院後退院)となったり、術式・麻酔法の変更を余儀なくされたりする例が散見される。特に入院後退院例では、病棟・手術室・事務部門の事前準備が無駄になり、円滑な手術運営にも支障が出てしまう。西宮市立中央病院看護部の濱崎弘子氏らは第43回日本手術医学会(1月28~29日、ウェブ併催)で、同院で実施している術前4週間の禁煙指導の効果を調査した結果を報告。調査開始後5年時に入院後退院率が大幅に改善したことから、禁煙指導には一定の効果が認められるとした。

禁煙困難者には再指導や入院前日の電話確認を実施

 濱崎氏らは、同院における2016年4月~21年3月の全身麻酔管理2,929例 (非喫煙者を含む)のうち、喫煙者が術前4週間の禁煙を遵守できずに発生した問題数および内訳を調査した。禁煙指導については、周術期管理委員会が術前4週間の院内規定を制定して周知するととともに、患者には指導内容の要旨を周術期関連書類のファイルに入れて手渡し、自宅で読み返せるようにした。2017~18年度は初回面談時に禁煙困難と判断した患者に対し、次回外来時に再指導を行う取り組みを実施。周術期における喫煙継続のリスクや、4週間の禁煙を遵守できなかった患者のうち可能な症例では手術を延期する点を強調した。また、2019~20年度には禁煙困難患者に対し、入院前日に電話で禁煙が継続できているかを確認する取り組みを実施した。

 その他、指導の一環として待合室に同院独自の禁煙ポスターを掲示したり、入院後退院になった場合も入院費用が発生することなどを訴える動画を流したりして注意喚起した。また、地域のラジオ局で同院麻酔科医師が禁煙の重要性を発信するなどの啓発活動も行った。

禁煙困難者のアセスメント機能強化が必要

 禁煙遵守ができずに発生した問題数は年度によってばらつきがあり、内訳を見ると、入院後退院、麻酔方法変更、手術拒否、術式変更などがあった(図1)。

図1.禁煙遵守できずに発生した問題35583_fig01.jpg                                                                                               (濱崎弘子氏提供)

 濱崎氏は、調査を開始した2016年度の問題発生数が1例のみであった点について、医療スタッフ側の問題意識が低かったのが原因であると指摘し、翌2017年度に問題数が増加したのは、意識の高まりの表われであると推察。2019年度の入院後退院が前年度の6例から1例に減少した点については、「禁煙困難例に対する入院前日の電話確認の取り組みが奏功した」と述べた。

 受診時に直接禁煙指導した件数に対する入院後退院率を見ると、2017年度は21.7%だったのに対し、2020年度は2.9%まで低下していた(図2)。

              図2.入院後退院率の推移35583_fig02.jpg                                                                              (濱崎弘子氏の発表を基に編集部作成)

 2020年度の入院後退院2例に該当する患者は、ともに禁煙困難とは判断されず、入院前日に電話確認ができなかったケースだったため、同氏は「アセスメント能力を強化させることで、入院後退院率をさらに改善できる」との考えを示した。

 以上を踏まえ、同氏は「術前4週間の禁煙指導を成功させるには、周術期管理に関わる医療スタッフが共通認識を持って患者に喫煙のリスクを理解してもらうことが重要。特に、禁煙困難例に対する入院前日の電話確認は入院後退院率の改善につながる。今後も患者の安全と円滑な手術運営を図るため、禁煙指導および調査を継続していきたい」と結んだ。