他人のたばこの煙を吸う「受動喫煙」は、肺がんの危険性を確実に高める。
肺がんだけでなく心筋梗塞や脳卒中、乳幼児突然死症候群などとも因果関係が十分ある。
受動喫煙が原因の死者は年間約1万5000人。日本の防止対策は「世界最低レベル」-。
厚生労働省の「たばこ白書」がこう警告していた受動喫煙の防止策が、このほどまとまった。2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて対策を強化する。
日本は公共の場の喫煙規制が最も遅れている国の一つだ。分煙ではなく、屋内の全面禁煙を目指したい。
強化策の主なものはスタジアムなど運動施設、社会福祉施設、官公庁、大学、病院の建物内を全面禁煙とする。
飲食店やホテル、一般の事務所では喫煙室の設置を認めるが、建物内は原則禁煙となる。駅や空港ビルも原則禁煙だが、鉄道や船は喫煙室を設置できる。
違反した場合は、施設の管理者にとどまらず喫煙者にも罰則を科す方向で、法制化を検討する。
現行の健康増進法は、多くの人が集まる公共の場での防止策が努力義務にすぎず罰則もない。
強化策は一歩前進には違いない。ただ今後、関係省庁やたばこ業界などとの調整があり、抵抗も予想される。
調整にあたって関係者は、たばこ白書が指摘したさまざまな健康被害を思い出すべきだ。
世界保健機関(WHO)によると、公共の場を法律で全面禁煙にしている国は14年末で49カ国に上る。
日本の受動喫煙の防止策が最低レベルとされるのは、罰則付きの法的規制がないからだ。そのことも忘れてはならない。
WHOは、受動喫煙を防ぐためには屋内の全面禁煙が必要とし、喫煙室などを否定している。たばこ白書も「屋内100%禁煙化を目指すべき」と提言した。
すべての人を受動喫煙から守る方法は、屋内の全面禁煙しかないのである。厚労省には防止策のさらなる強化を求めたい。
全面禁煙には、飲食店などから「客が減る」との反発が強まりそうだ。だが一斉に禁煙すれば競争条件は同じになる。
五輪は屋内を全面禁煙している国で実施されるのが慣例という。「たばこのない五輪」を目指すのは開催国日本の責務である。
もっとも開催国であってもなくても全面禁煙は喫緊の課題だ。その対策が「最低」のままでいいのか。国も国民も問われている。