厚生労働省は受動喫煙防止対策として、店舗面積150平方メートル以下の飲食店での喫煙を認める新たな案を検討している。
対策を盛り込んだ健康増進法改正案をまとめ、来年の通常国会提出を目指す。
150平方メートル以下の店舗にすれば、家族連れが訪れる店が含まれる可能性があり、子どもにも影響が及ぶことが予想される。
これまでの厚労省案から大きく後退した内容だ。受動喫煙による健康被害をなくす効果は限定的で、非常に緩い対策だと言わざるを得ない。
たばこ対策に詳しい専門家が「ざる法になるのではないか」と危惧するのも当然だろう。
厚労省は昨年、建物内を原則禁煙にする対策案をまとめた。
だが、「吸う権利」を掲げる自民党関係者や飲食業界の反対を受け今年3月、飲食店は原則禁煙とした上で、30平方メートル以下のバーやスナックなどに限り喫煙を認める改正案に変更した。
この案に対して、自民党のたばこ議員連盟は「分煙で十分」「たばこは禁止薬物ではない」などと猛反発していた。
新案は、面積150平方メートル以下であっても新規開業や大手チェーンの店舗では喫煙を認めない。既存店舗の営業への影響を考慮した臨時措置と位置づけるが、見直し時期は設けていない。
飲食店の経営や葉タバコ農家に対する打撃、たばこ税収減少に対する懸念は理解できる。
だが、受動喫煙が原因とみられる死者が年間1万5000人いる事態は看過できない。
世界保健機関(WHO)によると、海外では既に約50カ国が職場や飲食店など公共の場での屋内喫煙を禁止している。日本の防止策は「最低レベル」と判定されており、「30平方メートル案」でも世界標準には達していない。
厚労省は、東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年までに「受動喫煙のない社会を目指す」との目標を掲げてきた。
新案を盛り込んだ改正法が成立すれば、厚労省の目標は画餅に帰する。
対策案の後退は8月の内閣改造で、厚労相が原則禁煙にこだわっていた塩崎恭久氏から加藤勝信氏に交代したことを受け、厚労省と自民党との妥協が進んだ結果との見方もある。
新案のままでは、禁煙推進派からの批判は強まるに違いない。国民の健康を守る目的だけでなく国際的な信用の面からも、実効性のある受動喫煙防止対策は不可欠だ。軌道修正が求められる。