禁煙したいけど「飲み薬」がない…出荷停止響き、外来中断続く 学会は貼り薬使用を推奨

2023/06/04 11:33 南日本新聞 https://373news.com/_news/storyid/176253/

 たばこをやめたい人の治療に広く使われてきた飲み薬「チャンピックス」が2021年に出荷停止され、禁煙外来への影響が長期化している。医療機関の一部は外来を中断したまま、継続する外来は貼り薬で対応している。禁煙週間(5月31日~6月6日)に合わせ、鹿児島県内の医療機関や専門家に聞いた。

 「飲み薬(チャンピックス)を求めてくる人は多い。ないと伝えると禁煙を達成できるか、自信を失う患者が目立つ」。鹿児島市の有馬新一クリニックの有馬新一院長(76)はもどかしげだ。

 同クリニックは患者に貼り薬のニコチンパッチで代用していることを説明し、治療を受けるか判断してもらっている。「患者の禁煙をサポートできているか不安」と指導の難しさを明かす。

 たばこは、国内で年間約1万6000人が死亡する慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)の主な要因。脳卒中やがんの罹患(りかん)率、新型コロナウイルス感染時の重症化リスクも高くなる。

 ニコチン依存症に対する治療薬として使われてきたチャンピックスは、脳のニコチンを受け取る部分をブロックし、たばこを吸ってもおいしく感じなくなる効果がある。禁煙の成功率は7~8割程度と高い。しかし成分中に発がん性のある物質が検出され、21年6月から出荷停止となっている。

 鹿児島市の調査では出荷停止に伴い同年11月時点で、禁煙外来を実施する85施設のうち56施設が外来を中止していた。ホームページでは現在も「禁煙外来を実施する病院が少ない状況」とし、再開が進めば情報提供するとしている。

 ニコチンパッチでの治療を続けてきた霧島市溝辺の徳永医院は、初診時に30分ほどかけて喫煙による害を説明する。喫煙はニコチンだけでなく、習慣による心理的依存性も大きい。徳永大道院長(51)は「喫煙で寿命が縮むことや、家族の発がんリスクが高いことを伝えると禁煙する意志を固める人が多い」と患者本人の気持ちに働きかける治療を心がける。

 日本禁煙学会は23年3月、パッチで代用できるとして、禁煙外来を再開するよう医療機関向けの声明を出した。

 同学会の評議員でたかの呼吸器科内科クリニック(熊本県八代市)の高野義久院長(59)によると、飲み薬の出荷停止以降も新型コロナの重症化や感染リスク、たばこの値上がりを理由に患者が訪れる。

 パッチとニコチンガムを併用するなど工夫すれば、飲み薬と同等の効果が見込める。特に習慣と思考を見直す認知行動療法と組み合わせることを推奨している。「薬がないと諦めるのではなく、前向きに治療に取り組んでほしい」と話す。