[受動喫煙対策] 抜け穴大き過ぎないか
2018/2/1 南日本新聞・社説 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=90140
たばこの煙を周りの人が吸う受動喫煙をどれだけ防げるか疑問が残る。
厚生労働省が新たな受動喫煙防止のための対策案を発表した。2020年東京五輪・パラリンピックまでの施行を目指し、3月にも健康増進法の改正案を国会に提出する。
ファミリーレストランなど大手のチェーン店や新しくできる飲食店は原則禁煙とする。一方で、一定の面積以下の既存店は今まで通りたばこを吸えるとの内容だ。具体的な面積は明示しなかったが、自民党との調整では150平方メートル以下が軸になっているという。
世界保健機関(WHO)の17年の資料によると、公共の場所全てを屋内全面禁煙としている国は55カ国に及ぶ。国際基準と比べて、厚労省案は明らかに見劣りする。
厚労省は昨年3月の案で、30平方メートル以下のバー・スナック以外の飲食店は全面禁煙とし、禁煙の適用除外を最小限にすることにこだわっていた。大幅に後退したのは、飲食店団体や一部の自民党議員が「吸う権利を認めるべきだ」と反発し、法案提出が暗礁に乗り上げていたからだ。
喫煙を認める飲食店の面積を150平方メートル以下にすると、東京都内の9割超の飲食店が対象になるとの調査もある。規制の抜け穴はあまりにも大きく、がん患者の団体や医療関係の学会から批判が高まるのは必至だろう。
それでも厚労省は東京五輪までに対策を前進させるため、反対派が受け入れられる案を提示する必要があった。今回の案は、まず一歩踏み出すことを優先してこぎ着けた妥協案といえよう。
受動喫煙対策は、喫煙者の「吸う権利」を否定するわけではない。非喫煙者の「吸わない権利」を守るための対策である。
たばこの煙には有害物質が含まれ、成人では脳卒中や肺がん、子どもは耳や呼吸器の病気、赤ちゃんは突然死の原因にもなるとされる。厚労省の研究班の推計によると、受動喫煙が原因で年に1万5000人が亡くなっている。
葉タバコ生産者や既存の飲食店への目配りは欠かせないが、規制強化は避けて通れない。
飲食店対策が甘くなったのは残念だ。政府は「たばこの煙は人を傷つける」という認識を浸透させ、規制の実効性を増す努力を継続しなければならない。
五輪開催地の東京都は国より厳しい条例を模索してきたが、小池百合子知事の求心力低下もあり、条例制定が危ぶまれている。国際基準を踏まえ、開催地にふさわしい受動喫煙防止策を求めたい。