◆五輪開催国の責務自覚せよ◆
政府が進めている受動喫煙防止のための健康増進法改正に自民党の一部が強く反対し、改正案の今国会提出のめどが立たなくなっている。日本は2020年に東京五輪・パラリンピックを控えており、公共の場での喫煙規制は開催国の責務だ。反対派の動きは無責任といえよう。
3月に公表した改正案は、病院や学校は敷地内を全面的に、官公庁などは屋内を禁煙とし、飲食店などは喫煙室の設置は可とした上で屋内禁煙とするが、30平方メートル以下のバーやスナックなどは例外として喫煙を認めるという内容だ。
世界標準より緩やか
自民党は厚生労働省が検討している受動喫煙防止の強化策について、小規模の飲食店は「喫煙」や「分煙」を店頭に明示すれば喫煙を認めるという対案をまとめた。厚労省は自民党と改正案の内容について調整するが、難航は避けられないとみられる。
厚労省が昨年10月にまとめた原案には反対が強く、バーやスナックなどの例外規定を設けた経緯がある。現在の厚労省案は世界標準の屋内全面禁煙に比べてはるかに緩やかだ。それを自民党案のようにさらに緩和したら、もはや受動喫煙対策としての効果は期待できない。
世界保健機関(WHO)は受動喫煙の防止対策として屋内全面禁煙を推奨し、分煙や喫煙室の防止効果を完全に否定している。厚労省には本来なら屋内全面禁煙の目標を追求してほしいが、最低でも現在の改正案を堅持してほしい。
客減る心配当たらず
20年の東京五輪が近づいていることも重要である。WHOと国際オリンピック委員会(IOC)は「たばこのない五輪」を目指す合意文書に調印しており、近年の開催国では屋内全面禁煙が実施されている。その基準に照らせば、厚労省案ですら前例がない低レベルであり、自民党案は論外である。政権与党としての責任を自覚してほしい。
飲食店業界が禁煙に反対する理由は、客が減るという心配だ。しかし、各種の調査でも、禁煙で売上高が減少するという明確なデータは得られていない。それに、厚労省案のように小規模のバー、スナックだけを例外とするなら、それ以外の飲食店の競争条件は平等である。それらの店全ての客が減ることなどあるはずがない。
地方自治体の条例で屋外の禁煙が広がっている中で屋内も禁煙となると、たばこを吸う場所がなくなるという不満が出てくる。それには公共の喫煙所を増やせばいい。厚労省には喫煙者に配慮した対策の検討も求めたい。
今のままでは改正案の策定が行き詰まりかねない。ここは、官邸が仲裁に乗り出すべきではないか。安倍晋三首相は憲法を改正して20年の施行を目指すことと東京五輪を関連付けた。それほど五輪を重視するのなら、たばこのない五輪の実現にも力を使ってほしい。