社説  受動喫煙対策案 がん予防につながるのか

 2018/02/13 新潟日報 http://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20180213374302.html

 

 政府が目指している飲食店内の「原則禁煙」とは程遠い。がん予防の実効性に疑問を抱かざるを得ない。

 厚生労働省が、新たな受動喫煙防止のための対策案を発表した。2020年の東京五輪・パラリンピックまでの施行を目指し、3月にも健康増進法の改正案を国会に提出する。

 焦点となってきたのは、喫煙ができる飲食店の面積だ。厚労省は、150平方メートル以下を軸に自民党と最終調整している。当初案の30平方メートル以下から大幅に後退した。

 たばこ業界や飲食業界への影響を懸念する自民党議員に譲歩し、今国会での法案成立を優先した形だ。

 だが、喫煙ができる飲食店の面積を150平方メートル以下とすると、東京都内の9割超の飲食店が対象になるとの調査もある。

 禁煙やがんを研究する学会は「救える命も救えない」と厳しく批判している。当然だろう。

 大きな抜け穴の残る法案を早期に成立させたところで、いったい何の意味があるのか。厚労省の姿勢が問われよう。

 たばこを吸わなくても、その煙を吸う「受動喫煙」が健康に悪影響を与え、がんや脳卒中などのリスクを高めることが知られている。

 厚労省の研究班による推計では、受動喫煙が原因で死亡する人は国内で年間約1万5千人にも上るという。

 非喫煙者の4割が飲食店で受動喫煙したとの調査もある。対策強化は待ったなしだ。

 禁煙スペースが広がることで経営に響くと飲食業界から不安の声が上がるが、そもそも本当にそうなのか。

 米国の研究所は昨年、先進国では客が減るといった影響は出ないと結論付けている。

 さらに世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)は10年、「たばこのない五輪」の推進を掲げた。

 10年以降の五輪開催地は、罰則のある受動喫煙対策を取ってきた。それに比べれば、日本は停滞している。

 東京都は、2月開会の都議会定例会で予定していた受動喫煙防止条例案の提出を見送ると発表した。厚労省の対策案では規制対象が変更され、整合性を図っていく必要があると判断したためだ。

 小池百合子都知事は五輪開催都市として、国よりも厳しい条例の制定を模索してきた。ところが、ここに来て及び腰になっている感が否めない。

 都の条例が国の規制と同じレベルにとどまれば、五輪開催都市としての自覚と責任が問われるだろう。

 厚労省は、たばこが原因で14年度に100万人以上が、がんなどの病気になり、受動喫煙と合わせ約1兆5千億円の医療費が必要になったと推計した。国民医療費の3・7%に当たる。

 たばこ被害の防止は、国の財政面でもプラスということだ。

 たばこの害をしっかり認識した上で、受動喫煙対策を議論してもらいたい。