社説受動喫煙防止 健康被害直視し法整備を
2017年8月20日(日) 新潟日報 http://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20170817341028.html
受動喫煙が原因で亡くなる人は年間1万5千人と推計される。交通事故死者の約4倍にもなる。健康被害を直視し、一刻も早く法整備をして対策を強化すべきだ。
政府は受動喫煙対策を強化した健康増進法改正案について、自民党との間で調整がつかなかった例外で喫煙を認める飲食店の広さを盛り込まず、政令で規定することにした。
広さの線引きは法の公布から2年以内に政令で定める。9月にも自民党の担当部会に示し、秋の臨時国会に提出を目指す。対立点を先送りし、法整備を優先させる。
改正案は多くの人が利用する施設での喫煙を原則禁止とした。違反を重ねた場合は罰金を科す。飲食店、事務所、集会場は屋内禁煙としつつ喫煙室の設置を認める。個人の住宅、旅館・ホテルの客室は喫煙可能とした。
現行の健康増進法は病院や官公庁、飲食店などの管理者に受動喫煙防止に対策を取るよう求めるが罰則のない努力規定だ。世界保健機関(WHO)は日本の対策を4段階評価の最低ランクに位置付けている。
改正案は、多くの人が集まる施設を原則禁煙とした点や、罰則を設けた点が対策強化の観点から評価できよう。
国際オリンピック委員会(IOC)とWHOは、たばこの煙は有害だとして「たばこのない五輪」を推進し、近年の開催地は罰則付きの法律や条例で公共施設などの屋内喫煙を禁じてきた。
こうした経緯を踏まえると、政府が目指す東京五輪前の法改正は当然であり、むしろ急がねばならないといえよう。
ところが厚生労働省と自民党との間で調整がうまくいかず法案は通常国会に提出できなかった。例外とする飲食店の線引きで折り合いが付かなかったからだ。
厚労省は激変緩和措置の数年間を経て、喫煙を認める例外を約30平方メートル以下の小規模なバーやスナックに限定する考えだった。
自民党は例外を150平方メートルまで広げ、店頭に「喫煙」「分煙」と明示すれば、店の業態に関係なく喫煙可能とする対案を示した。
自民党の反対派は喫煙者の吸う権利とタバコ農家保護、税収への影響とともに「飲食店の売り上げ減少」に配慮するよう強調する。
全面禁煙と飲食店の売り上げの相関関係調査では減ったとの回答が4%で、変わらないが95%だった。レストランチェーンでは3カ月で売り上げが回復したという。
厚労省は、広範な例外措置を恒久的に認めるのは受動喫煙の被害を助長し、国民の理解も得られないと訴えた。
専門家の中には「ここまで健康被害が明らかなのに反対するのは不作為どころか殺人行為だ」との厳しい指摘がある。
自民党も受動喫煙対策強化自体には賛成が多いという。ならば原則を重視し、できるだけ例外を設けない方向での対応が望まれる。
懸念する経済的影響は最小限にとどめられるよう厚労省と知恵を絞ってほしい。命と健康を守ることを何より最優先すべきだ。