「たばこ包囲網」狭まる 禁煙、企業内・外食店舗で加速 投資や株価左右
2019/5/27 05:00 日刊工業 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00517899?isReadConfirmed=true
企業を取り巻く「たばこ包囲網」が狭まっている。就業中の禁煙の導入だけでなく、新卒採用の募集要項に非喫煙者を盛り込む企業も出てきた。日本では最近まで個人の嗜好(しこう)とみなされてきた喫煙だが、外食産業が店内での禁煙を打ち出すことで株価が上昇するなど風向きは確実に変わりつつある。海外では金融機関がたばこ産業への投資を控える動きもあり、たばこ離れが加速しそうだ。
喫煙者、採用しません―。損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険は、新卒採用に新機軸を持ち込んだ。2020年4月に入社する新卒社員の募集要項に「非喫煙者、または入社時点で非喫煙者であること」を明記したと発表。申告制で、入社後に喫煙が発覚しても処分はしないが、たばこを吸わないことを明示した採用制度は珍しい。
親会社のSOMPOホールディングスの担当者は「健康を応援する企業としてのメッセージ。役員らの就業時間内禁煙などの先行した取り組みや時代の流れもあり、特に(募集要項への明記の)違和感は社内ではなかった」としている。ひまわり生命では18年10月に役員、部室長、統括部長、営業部長が就業時間内禁煙を実施し、4月に全従業員に広げた。
ソフトバンクも社員の健康増進を目的に4月から就業中の禁煙を段階的に導入した。まずは毎月最終金曜日に実施し、10月以降は毎週水曜日を対象に加え、20年4月には全面的な禁煙を実現する。
厚生労働省の16年度の「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」によると、日本では能動的な喫煙に起因する疾患によって年間約13万人、受動喫煙によって年間約1万5000人が死亡していると推計される。これまで受動喫煙の防止が進まなかったが、20年の東京五輪・パラリンピックをにらみ、飲食店の全面禁煙をめぐる議論など盛り上がりをみせた。飲食店を原則禁煙にする改正健康増進法は20年4月に施行される。
外食業界では規制導入を見越して店舗の禁煙化に踏み切る動きが進む。串カツ田中は全国チェーンの居酒屋業態では初めて、18年6月からほぼ全店にあたる180店舗を全面禁煙にした。方針を発表した翌日の株価は6%以上値上がりした。個人の嗜好に制約を加えることに賛否はあるが、市場でも「嫌煙」が好感されていることがわかる。
海外企業の取り組みは先を行く。世界最大級の保険グループの仏アクサは約200兆円の資産を運用するが、たばこ産業への投資から完全に撤退している。アクサの日本法人の担当者は「企業の社会的責任の観点から、たばこ産業は武器や児童労働などと同じ扱い。純粋な投資でも成長性の余地は少なく、リターンは見込みにくい」と語る。