実効性ある受動喫煙対策を 

2017/3/3付社説 日経新聞 http://www.nikkei.com/article/DGXKZO13616560T00C17A3EA1000/ 

 

 厚生労働省は他人が吸うたばこの煙を吸い込む「受動喫煙」を防ぐための法案を今国会に提出する考えだ。たばこが健康を損なうことは明らかだ。自らの意思でたばこを吸う人以外に、その害が及ぶようなことがあってはならない。効果的な対策を講じてほしい。

 今回の法整備は2020年の東京五輪が契機となっている。世界保健機関(WHO)などは「たばこのない五輪」を目指しており、最近の開催国はどこも罰則を伴う法規制によって受動喫煙対策を強化している。

 日本は今のところ、法律で受動喫煙防止の努力義務をうたうにとどまる。依然として多くの人が飲食店や職場で受動喫煙の被害に遭っている。WHOによると、日本の対策は世界で最低レベルだ。

 このため、厚労省は多くの人が利用する場所で禁煙を義務付け、違反した場合には罰則を科す法整備を検討中だ。医療機関や小中高校は敷地内をすべて禁煙にする。職場や劇場、飲食店は屋内禁煙だが、喫煙専用室を設けることは認めるという。妥当な方向だろう。

 焦点になっているのは飲食店の扱いだ。飲食業界や与党・自民党から「喫煙の自由もある。一律規制はおかしい」といった強い批判が起こっている。批判に対し、同省は主に酒を提供する小規模なバーやスナックなどに限って例外的に喫煙可能とする方針だ。

 妥協策を探る必要はあるだろう。ただ、どこで例外の線を引くかは難しい。一斉にしゃくし定規な規制をかけ、かえって抜け道を生んでしまっては意味がない。

 当面、店の外から明確にわかるようにしておけば条件付きで喫煙可能とするなど、柔軟な対応もあり得るのではないか。国会でも受動喫煙対策を前進させる観点で責任ある対応をしてほしい。たばこの害に遭う人をなくしていくという実効性が大切だ。

 法制度とは別に、喫煙者は吸うことが可能な場所でも周囲に配慮することが欠かせない。マナーももっと向上させたい。