他人が吸うたばこの煙を吸い込む「受動喫煙」を防ぐための法案をめぐる政府・自民党内の調整が難航している。2020年の東京五輪に向けて居酒屋を含む飲食店内を全面禁煙とする厚生労働省案に対し、自民党内の反対論が収まらないためだ。すでに日本の喫煙率は2割弱。それでも禁煙が進まないのはなぜか。
厚労省案は30平方メートル以内のバーやスナックを除き飲食店内を原則禁煙とする厳しい内容だ。世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)が10年に「たばこのない五輪」の推進で合意。それ以降の五輪開催都市は屋内禁煙としていることが背景にある。
これに異を唱えるのが自民党の「たばこ議員連盟」(野田毅会長)だ。全議員の7割にあたる約280人が所属。飲食店が禁煙・分煙・喫煙を自由に選ぶ対案を示し「たばこを吸って人が憂いを晴らすことまで国は締め付けるのか」と訴える。
分煙案は「従業員らの受動喫煙を予防できない」など受動喫煙対策の効果が薄いというのは世界的な共通見解だ。それでも議連が分煙案にこだわるのには理由がある。
禁煙強化に反対するたばこ業界は、全国たばこ耕作組合中央会(約5500人)と全国たばこ販売協同組合連合会(約6万人)が中核で、いずれも自民党の有力支持基盤だ。1小選挙区あたり200人程度の組合員がいる計算で、両団体を中心に厚労省案へ120万人分の反対署名を集めた。
たばこの税率は販売価格の6割で、喫煙率は低下しているが税収は毎年2兆円超。税率は野田氏がかつて会長を務めた自民党税制調査会が決めるが、党税調にもたばこ業界が強い影響力を持つ。
今回は中小飲食店も経営が脅かされると反対派として参戦。地方の飲食店経営者らは地域の有力者であるケースが多く、後援会組織が弱い若手議員らにとっての影響力は大きい。喫煙率が2割を切ってもなお同党がたばこを吸わない人の声に向き合えないゆえんだ。
6月18日の国会会期末が迫るなか、自民党は8日、飲食店でも専用室内なら喫煙を認める新たな規制案をまとめた。たばこ議連の独自案より歩み寄った内容だが飲食店内の原則禁煙を掲げる厚労省案との溝はなお深い。
こうした状況を前に、五輪開催地、東京都の小池百合子知事は「『スモークフリー』を東京から実現できないか」と練る。都の独自条例で厳しい規制をかけることも可能だからだ。7月の都議選で「反都議会自民党」を掲げる小池氏。受動喫煙はそのカードの一つにもなりかねない。