社説 受動喫煙防止へ法整備急げ 

2017/6/19付 日経 http://www.nikkei.com/article/DGXKZO17818160Z10C17A6PE8000/ 

 

 他人が吸うたばこの煙を吸い込む「受動喫煙」防止のための対策強化が、先送りされた。政府は健康増進法改正案の国会提出を目指していたが、規制慎重論がある自民党側と一致できなかった。

 たばこが健康を損なうことは科学的に明らかだ。対策の遅れは国際的な潮流とも逆行する。秋の臨時国会での成立に向け、関係者はあらゆる努力を尽くすべきだ。

 世界保健機関(WHO)の調査によると、公衆の集まる場所すべてに屋内全面禁煙義務の法律がある国は49カ国ある。日本は今のところ、健康増進法で受動喫煙防止の努力義務をうたうにとどまる。WHOの判定では日本の対応は「世界最低レベル」だ。

 国際オリンピック委員会とWHOは「たばこのない五輪」を掲げる。最近の開催国はいずれも、罰則を伴う法規制で対策を強化してきた。2020年の東京五輪に先立ち、19年にはラグビーのワールドカップが開かれる。このままでは日本は、健康被害を軽視する国と思われかねない。

 最大の焦点は飲食店の扱いだ。厚労省は「屋内禁煙」を原則としつつ、喫煙専用室を設置できるとの案を示した。専用室がなくてもたばこが吸える例外は、小さなバーやスナックだけだ。

 一方の自民党側は、一定面積以下なら飲食店の業態を問わず、喫煙の表示などを条件に喫煙を認める立場に立った。これだとかなり多くの店で恒久的にたばこが吸えることになる。受動喫煙対策としてはあまりに力不足だ。

 飲食店には規制による売り上げ減少への懸念がある。だが国内外の調査では、悪影響はほとんど生じていない。厚労省は規制を一定期間猶予する案も示している。政府と自民党は冷静に議論を深めてほしい。

 日本では少なくとも年間1万5千人が、受動喫煙がなければ死亡せずに済んだと推計されている。今こそ実効性のある対策をとり、被害をなくしていく道筋を示さなければならない。