受動喫煙の防止対策をめぐり、東京都の小池百合子知事が政府より強い規制を打ち出した。昨年秋の衆院選惨敗以来、政権に盾突く言動を控えてきた小池氏。政権が相次ぐスキャンダルに揺れる中、間隙を突いて放った求心力回復への布石にも映る。ただ反転攻勢のきっかけにするには、まだ足場は固まっていない。
「受動喫煙、何とかしたいんですけどね」。2月16日夜、都内の帝国ホテルで開いた横倉義武・日本医師会長の世界医師会長への就任祝いの会。安倍晋三首相ら政府首脳とともに来賓で出席した小池氏は会場を後にする際、関係者に悔しさをにじませた。
受動喫煙対策は圧勝した2017年都議選で掲げた看板政策。政府は当初、面積30平方メートル以下を除く飲食店を原則禁煙にする方針で、都も足並みをそろえる考えだった。しかし飲食業界をバックに持つ自民党の反発で政府の規制は、客席面積100平方メートル以下まで例外を広げて大幅に後退。都も2月に予定していた条例案の提出を先送りし、練り直しを迫られた。
頼ったのが東京都医師会だ。小池氏は条例案提出の先送りを決めた後、都医師会の尾崎治夫会長に1本の電話を入れた。「もう一度立て直したい。民意をつくってもらえませんか」。「後退したくないという執念を感じた」(尾崎氏)という都医師会は4月から政府より規制を強めるよう求める署名活動を始めた。
都医師会は「煙が濃くなる狭い店ほど優遇する面積要件はそもそも不合理」という立場だ。都も「なぜ100平方メートルか、30平方メートルかという根拠が弱かった」(都民ファーストの会幹部)と面積による規制を撤回。「働く人の健康」を前面に出せば、人手不足に悩む飲食業界の理解も得やすいとみて規制対象を「従業員を雇う店」に転換した。
禁煙になる飲食店は政府の規制では全国の45%が対象だが、都は84%に厳格化。保育所や学校といった施設でも政府は屋外に喫煙場所を設けられるが、都は認めない。
ただ、政府より強い規制に都議会で自民党が反発するのは必至だ。知事与党の都民フに加え、共産党が賛成すれば条例は成立するが、都政の主導権を取り戻すには都議会でキャスチングボートを握る公明党を取り込めるかが焦点になる。
知事与党だった公明党は昨秋の衆院選後「是々非々」を宣言、小池氏と距離を置いた。「次の都議選を見据えて自民党と復縁しなければならない」(衆院議員)という声が多く、両党の有力都議が水面下で定期的に接触していた。
その自公に再び溝が生じたのが都の18年度予算案への対応だ。3月末、反小池で勢いづく自民党は41年ぶりに予算案に反対する方針を決め、採決直前に公明党に同調を打診。しかし公明党は「政局で都民の生活を犠牲にできない」と断った。
自公の対応が割れたことで「小池氏は公明党と組み再び都政の主導権を握れると踏んだようだ」(都議会関係者)。小池氏は条例案骨子の発表に先立ち、概要を公明党には都幹部を通じて連絡する一方、自民党には伝えなかった。公明党都議の一人は「自民党の反対を見越してあえて高い球を投げてきた」とみる。
公明党は受動喫煙防止を唱えており、政策としては賛同できる。しかし政権の混乱で衆院解散・総選挙の観測も飛び交う中では踏み絵にもなる。公明党都議は「国政の連立に影響するため都議だけでは判断できない。最後は山口那津男代表の決断になる」と警戒する。
衆院選惨敗から半年余り。国政の足場になるはずだった希望の党は分裂し消滅の危機にある。都政でも豊洲市場への移転で打ち出した築地活用策が豊洲で商業施設を予定する事業者の反発を買っている。
それでも、当の小池氏は一時の蟄居(ちっきょ)状態から露出を強め始めた。14日には都内でスポーツイベントに顔を出し「きょうは私も運動します。運動といったら選挙運動ばかりしていたから」とあいさつし会場の笑いを誘った。有権者の冷ややかな視線がどこまで残っているか、肌でつかもうとしているように見えた。