従業員雇う飲食店は禁煙 都、五輪にらみ国より厳しく遮断スペースならOK、設置費の補助も

2018/4/27 日本経済新聞 朝刊 https://style.nikkei.com/article/DGXMZO29650870Q8A420C1EA4001?n_cid=LMNST020 

 

 東京都は罰則付きの受動喫煙防止条例の骨子案を発表した。従業員を雇う飲食店は原則屋内禁煙にし、都内飲食店の84%が規制対象になる見通し。2020年の東京五輪では「煙のない五輪」を目指し、国の法案よりも規制対象を広くする。6月開会予定の都議会に提出し、20年の全面施行を目指す。

 

 政府が国会に提出した健康増進法改正案は、客席面積100平方メートル以下の店を規制対象外としたが、都は面積に関係なく対象にする。ただ、たばこの煙を遮断するブースを設ければ喫煙を認め、設置費として最大300万円を助成する。また、従業員がいない家族経営などの飲食店は屋内の禁煙、喫煙を選択できる。

 保育所や小中高校では敷地内を禁煙とし、煙を遮断する喫煙場所の整備を認めない。国も敷地内禁煙とするが、喫煙スペースは設置可能だ。

 都は条例成立後、20年にかけ段階的に施行する。19年のラグビーワールドカップ(W杯)前には店頭に禁煙、喫煙の表示を義務付ける。20年には罰則の適用を含め全面施行の予定で、違反した場合は5万円以下の過料を科す。

 小池百合子知事は4月20日の記者会見で「働く人、子どもを受動喫煙から守る方策を考えた」と強調した。都が検討していた面積を基準とした規制については、飲食業界などからの反対も多く導入を見送ったもようだ。

 国に比べて規制が厳しいといっても、海外に比べると緩い。五輪開催都市であるリオデジャネイロやソチは飲食店に喫煙専用室の設置も認めない完全な「屋内禁煙」にしている。都の対策に批判が出る可能性もある。

 国や都の規制の動きを受け、飲食店の中には対策に動き始めたところもある。串カツ田中は6月から、全体の9割にあたる約160店を全面禁煙にして喫煙室も設置しない方針だ。喫茶店を運営するドトール・日レスホールディングスは一部店舗で喫煙室を試験的に設置している。同社は「喫茶業態では客のニーズもあり急に全面禁煙というわけにはいかない」と、対応の難しさを話す。

 都議会の動向も焦点になる。公明党が賛成すれば、知事与党の都民ファーストの会と合わせ可決できる。公明は以前から受動喫煙対策を訴えており、賛成する見通しだ。

■国際レベルへ、ようやく一歩

 20年の東京五輪が世界の潮流の「たばこの煙のない五輪」になる可能性がようやく出てきた。東京都が発表した受動喫煙対策は従業員を雇う飲食店を面積にかかわらず「原則屋内禁煙」とする内容で、都内の飲食店の8割が対象になる。飲食店や同業界を支持基盤に抱える自民党との調整が課題になるが、実現すれば国際レベルの規制に一歩近づく。

 都が検討する「原則屋内禁煙」は、喫煙専用室を置いてその室内でだけ吸うことができる。喫煙専用室は外に煙が流れ出ないようにしたブースで、煙を閉じ込める対策をとる。従業員を雇っていない家族経営などの店は対象外だが、子どもが入る店は家族経営でも規制の対象にする。

 政府の対策は「原則屋内禁煙」で客席面積100平方メートル以下の店は対象外としており、全国の既存の飲食店の55%は喫煙できる。都内飲食店の8割が対象になる都の方がより幅広く規制が及ぶ。飲食業界の反発は必至だが、都議会では自民党が反対しても、公明党が賛成すれば、知事与党の都民ファーストの会と合わせて条例を通せる。

 もっとも屋内の禁煙は海外に比べるとまだ緩い。ニューヨークやロンドンは店内に喫煙専用室も置けない完全な「屋内禁煙」。国際オリンピック委員会(IOC)は世界保健機関(WHO)と「たばこの煙のない五輪」の推進を打ち出し、北京やリオデジャネイロなど最近の五輪開催都市も完全な屋内禁煙だ。

 一方、パリやベルリンは喫煙専用室の設置を認める原則屋内禁煙で、この冬、五輪を開いた平昌も原則屋内禁煙だった。ベルリンや平昌は小さなバーなどは喫煙専用室がなくても喫煙でき、都の方針に近いといえる。

 海外では屋内の喫煙は厳しく規制するものの、屋外では比較的自由に吸える国が多い。目的が受動喫煙の防止のため、屋外は受動喫煙のリスクが屋内より小さくなるためだ。一方、日本では街の景観を保つことなどを目的に、多くの自治体が屋外で歩きたばこやポイ捨てを禁止する条例を定めている。たばこ規制の目的をどう考え、屋内と屋外の規制のバランスをどうとるかも課題になりそうだ。

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■スケジュール、ラグビーW杯も意識

 東京都の小池百合子知事の4月20日の記者会見での主な一問一答は以下の通り。

 ――条例の施行は19年のラグビーW杯日本大会の前に実現するのか。

 「W杯、20年五輪・パラリンピックが迫っているのは事実。それに対して、十分な時間を確保していく。逆算すると、18年6月(開会予定)の都議会定例会で審議してもらうのがタイムスケジュールとしてふさわしい」

 ――政府も法案を国会に提出している。

 「法律と条例との整合性をとったほうが都民も混乱がない。(対策の)立て付けを法律に合わせた。実効性ある方策にするため、これまで示してきた考え方から、パブリックコメント(意見公募)や区市町村の意見などを参考にして、変化が生じた」

 ――都内と都外で基準が分かれると、全国チェーンなどの事業者に負担がかかるのでは。

 「条例は地方(自治体)が自治の立場で作っている。(基準が分かれる点は)受動喫煙のみに限るものではない」

 ――罰則規定は。

 「詰めていきたい。罰則とインセンティブと両方で進むものと考える」

 ――喫煙場所の整備はどう支援するのか。

 「事業者、区市町村が行う環境整備への支援を充実させる。どのようなことを条件に整備の補助を出すのかはしっかりと詰めたい。実効性ある公衆喫煙所の整備補助を目指したい」

[日本経済新聞朝刊2018年4月21日付を再構成]