東京都が条例で屋内での原則禁煙を進めます。飲食店はどう変わりますか?
回答者:大岩佐和子編集委員 東京都が4月、「受動喫煙防止条例」の骨子案を発表しました。飲食店の屋内を原則禁煙にするという内容です。実現すれば、都内の8割以上の飲食店が規制対象になります。「たばこ臭い店は嫌だ」という女性客も増えており、受動喫煙のリスクに加え、集客策として積極的に禁煙シフトを進める飲食店が登場しました。
都が条例で屋内禁煙を進める直接的なきっかけは、2020年の東京五輪・パラリンピックです。日本は禁煙の対策では、他の先進国に後れをとっています。世界中から観光客が訪れるのに、煙がモクモクではいけないということで、都は条例の20年全面施行をめざしています。
「売り上げが落ちる」などと飲食店の業界団体は反発を強めています。しかし、条例施行に先んじて有力チェーンが相次ぎ「全席禁煙」を宣言しました。なかでもサラリーマンが多く来店する「串カツ田中」をはじめとする居酒屋が禁煙に踏み切ったことで、この流れがどんどん加速しそうです。居酒屋は、ファミリーレストランやファストフードに比べて喫煙客が多く滞在時間も長いので、影響を受けやすいはずですが、時代の変化を読んで、先手を打った形です。
喫煙者の客が減っても、たばこの臭いを嫌がる女性など新しい顧客を呼び込めるので「プラスのほうが大きいのでは」。こう話すのは、英国風パブ「HUB」の担当者です。グループ内に喫煙者がいても禁煙席に座るなど、消費者の意識も随分変わりました。「アルバイトも採用しやすくなる」といいます。若い世代はタバコを吸わない人が多いので喫煙席への接客を敬遠するからです。
居酒屋「八剣伝」などを展開するマルシェも禁煙をチャンスと捉えています。業態を転換して家族連れを呼び込もうとしています。
女性の社会進出が進み、仕事帰りに1人で飲むことへの抵抗感がなくなりました。「一人飲み」はさらに増えるでしょう。また、家族でも、夕飯をバラバラにとることが多くなりました。休日は一緒に外食を楽しみたいというニーズも膨らむでしょう。
健康を気にする高齢者の需要もあります。特に増えている一人暮らしの女性の高齢者です。一人分を調理するのは面倒だけれど、食事らしい食事をしたいというニーズです。できあいの総菜ばかりでは満たされません。20年には居酒屋の客層も大きく変わるかもしれません。
もっとも条例をまだ知らない店もあります。豊島区のあるインド料理の店主は「そんな条例があるとは」と驚いていました。周知徹底が課題でしょう。
結論:居酒屋は全面禁煙の店の増加に伴い、女性グループや家族の顧客が増えそうです。メニューや店の雰囲気も変わるでしょう。