東京都 受動喫煙防止条例案、飲食店は減収懸念 海外調査では「限定的」も

2018/5/30付 日経 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO3110487029052018L83000/
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 東京都は6月からの定例議会で、都独自の受動喫煙防止条例案を提出する。従業員を雇っている飲食店の店内を原則禁煙とする規制に、飲食店からは「客が減る」と悲鳴があがる。

 ただ規制で先行する海外では必ずしも減収になっているとは限らない。条例への「脅威論」には行き過ぎとの声もある。

 「年間1963億円の売り上げが減る」。東京都庁に小池百合子知事を訪ねた飲食業界の団体はこう指摘した。都の受動喫煙防止条例は事実上の屋内全面禁煙だとし、喫煙者離れで店舗経営が傾くと強く警戒する。

 都内の減収予想を示すこのデータのもととなったのが、調査会社、富士経済が実施した2017年の調査。全国約7000店へのアンケート調査をもとに試算した「建物内禁煙」にした場合の影響は、国内全体で8401億円の減収という内容だ。

 これだけ見れば飲食店が警戒するのも無理はない。ただ、同調査のデータは各店の店主の売り上げ減少幅の予想にもとづき算出したものだ。条例案賛成派からは「飲食店主の主観的な印象にすぎず、因果関係があるとは言えない」(慶応大の中室牧子准教授)との指摘もある。

 実際のデータで見るとどうか。すでに法や条例を施行した前例では、必ずしも減収一辺倒というわけではない。

 03年に導入した米ニューヨーク州。同州の調査によると、バーからの売り上げ税収は1億6000万ドル前後で推移していたが、法施行後もほぼ同じ水準が続いた。

 04年に店内禁煙の法律を施行したノルウェーでは、レストランの売上高が05年、03年よりも2.5%増えたとの調査を同国の研究者がまとめている。屋外が寒く喫煙に向かないという厳しい環境でも、店内禁煙による店舗への悪影響はなかったという。

 04年に屋内禁煙法を導入したアイルランド。都市部の大型のバーで売り上げが減った一方、地方のバーで売り上げが増えたとし、全体では影響は限定的だとしている。

 世界保健機関(WHO)の09年の「がん予防ハンドブック」によると、喫煙規制の導入による影響を調査した86本の公式論文のうち、「サービス業への経済的な負のインパクトはなかった」のは4分の3の65本。導入前後の複数年間の動向を調査するなど、「適切な統計手法」を使った論文49本に限れば、47本で影響がないという。

 これまで来店を避けていた嫌煙派の人たちが来店するなど、規制が売り上げにプラスに働く要素も考えられる。「変わる時には不安があるのは当然」。小池知事は25日の記者会見で条例導入による影響を不安視する飲食店を念頭にこう言う。

 「条例を成立させたところで、都の規制は依然として諸外国に比べて水準が低い」と都庁幹部は話す。受動喫煙防止は世界的な流れだ。世界が注目する20年の五輪・パラリンピック開催を控え、経営環境の変化に対応できるかが飲食店に問われている。