2020年4月に予定する東京都の受動喫煙防止条例の全面施行まで1年を切った。従業員を雇う飲食店は原則屋内禁煙という国を上回る規制への対応など、各店の取り組みが問われる。都に続き厳しい規制を決めた千葉市のほか、首都圏各自治体は規制強化を検討し、企業も社員の禁煙を後押しする。一方で課題も残る。TOKYOの受動喫煙対策の今を追った。
分煙などで対応してきた居酒屋の中で、本格的に全面禁煙にする店が出てきた。
焼き鳥居酒屋「てけてけ」を運営するユナイテッド&コレクティブは禁煙店「やきとり魁(さきがけ)」を、2018年11月から19年2月まで新宿区に実験的に出した。客単価を1000円程度に抑えてファストフード感覚で焼き鳥を食べてもらう一方、売り上げ減に備えてセルフレジを導入しコストを削減した。
店内では女性や外国人の姿が目立った。イラン人男性(52)は「日本は当たり前のようにたばこを吸える店が多いが、清潔な環境で焼き鳥の風味を楽しめた」と満足げだ。女性客(31)も「焼き鳥は好きだが、髪や服に他の客のたばこ臭が付くのは嫌」と全面禁煙を歓迎する。
伊東雅史マネジャーは「多い日は約50席の7割が20~30歳代の女性で埋まった」と明かす。同じ新宿にある系列の喫煙可能店に比べ、夜だけでなく午後にも客足のピークが発生した。この結果に満足した同社は、郊外を中心に100店を目標に禁煙店を出店する。
一方、規模が小さく、客とのつながりが強いスナックは対応を決められずにいる店が多い。
「長年働いてもらっている従業員は解雇できない。でも客は愛煙家ばかりで……」。東京・歌舞伎町のビルに入るスナック「毘沙」の瀬木翔子さん(49)の悩みは深い。
条例は従業員を雇っていれば店内禁煙が必要で、違反者には過料を科す。煙を遮る部屋をつくれば喫煙できるが、同店は約30平方メートルで余裕がない。完全禁煙にすれば「客の8割を占める喫煙者の足が遠のく」。
このため、業界団体が探り始めたのが、葉巻を吸う「シガー・バー」などと同じ「喫煙目的施設」への移行だ。酒とつまみを出すスナックがたばこの対面販売をすれば、喫煙目的施設の要件を満たし、店内で喫煙できる。対面販売はたばこの小売り免許を取るか、たばこ販売店に出張販売してもらう方法がある。
「免許は売り上げの見通しや近隣のたばこ販売店から一定の距離があるなど基準が厳しい。出張販売なら実現可能性はある」。約2千軒のスナックが加盟する、都社交飲食業生活衛生同業組合の塚口智理事長はわらにもすがる思いだ。だが、出張販売してくれる販売店を見つける必要があるなど実現は簡単ではない。「何とかメドを付けなければ都内のスナック文化が消える」と焦る。
喫煙問題に詳しい産業医科大学の大和浩教授は「今年は国内外から観客が長期間訪れるラグビーワールドカップがある。条例の施行を待たず喫煙対策を試す機会として生かすべきだ」と訴える。
喫煙者の割合は低下しているとはいえ、厚生労働省の調査では17年で18%の人がたばこを吸っている。酒を飲める店であっても吸う人、吸わない人、そして従業員が共存できるよう各店が十分な対策を取ることが求められる。