2019/7/17 11:38 日経 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47421270X10C19A7CC0000/?n_cid=NMAIL007
受動喫煙対策の強化に向けて7月から一部施行された改正健康増進法で、「例外的」に設置を認めるとされた屋外喫煙所の新設が自治体の役所などで増えている。同法では行政機関や病院の敷地内は原則禁煙と規定された。屋外喫煙所は喫煙者が周辺の路上や公園でたばこを吸うことを防ぐ苦肉の策だが、専門家からは「法の趣旨に沿って完全禁煙を進めるべきだ」との声も上がっている。
「ほかに設置場所はなかったのか」「本当に喫煙室が必要なのか」。6月末に東京都板橋区が開いた説明会で、住民から反発が相次いだ。
同区は地下鉄の板橋区役所前駅近くの区有地に6月下旬、定員8人のコンテナ型喫煙室を新設した。空気清浄機を備え、室内の気圧も下げて煙の流出を防ぐという。7月から庁舎内の喫煙所をなくす予定だったため、「屋外での喫煙が増えないように」(資源循環推進課)来庁者らに利用してもらうつもりだった。
だが周辺に診療所や子供向けの英会話教室があるとして近隣住民が反発、6月末の説明会も溝が埋まらぬまま終了した。区は7月としていた利用開始を9月以降に変更し、今後も説明を尽くす方針だ。現在は庁舎内の喫煙室を「緊急避難的に利用している」(同課)。
東京都品川区も庁舎内にあった8カ所の喫煙所を廃止し、屋外に3カ所の喫煙所を新たに設置した。同区の担当者は「付近の路上での喫煙を防ぐために設けた」と話す。都内では江東区や墨田区も庁舎内の喫煙所を廃止し、屋外に新設した。
改正健康増進法は全国の行政機関や病院、学校などの敷地内を原則禁煙とした。子供や若者、病気の人や妊婦らの受動喫煙を防ぐ狙いだが、「受動喫煙防止に必要な措置」が取られれば、例外的に屋外に喫煙場所を設置することを認めている。
厚生労働省などによると、諸外国では屋内の原則禁煙が一般的で、ロシアや韓国、中国など最近の五輪開催国も五輪をきっかけに屋内の禁煙を義務付けた。屋外についての規制はほとんどなく、路上では自由に喫煙できる国が大半という。
日本では、路上禁煙を義務付ける条例の整備が先行した。屋内を原則禁煙とすると喫煙者の行き場がなくなるため、「決められた場所で吸うという日本的なやり方」(同省)として、病院や行政機関の敷地内でも屋外喫煙所の設置を認めた経緯がある。
同省などは「措置が設けられたことで屋外喫煙場所の設置を推奨するものではない」とくぎを刺す通知を出したが、屋外喫煙所の新設は各地で続発している。
屋外型喫煙室のコンテナ製品を製造販売するRJ(東京・千代田)は「問い合わせがこの1カ月で急増した」という。2018年4月以降問い合わせは月1件程度だったが、一部施行前の19年6月に10件に増えた。9件が自治体、1件が病院からだったという。
屋外に設置できる喫煙室を全国で販売している三協フロンテアも「昨年に比べて受注が増えている」という。
改正健康増進法は東京五輪・パラリンピック直前の20年4月に全面施行される。喫煙対策に詳しい産業医科大の大和浩教授(健康開発科学)は「受動喫煙の発生範囲は喫煙所の排気口から25メートル以上に及ぶ。敷地内の喫煙所をすべて撤去した自治体もある。周辺道路も含め、完全禁煙を進めるべきだ」と話している。
近隣住民の反対で設置後も立ち入り禁止の状態が続く屋外喫煙所(17日午前、東京都板橋区)