喫煙室、設置は少数派 都の受動喫煙防止条例対応で
中小企業勝ち抜く条件 迫られる変化(下)

2019/11/13 2:00 日経 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52081600S9A111C1L83000/

 

東京都は2020年4月に受動喫煙防止条例を全面施行する。従業員を雇用する飲食店などは喫煙室を設けない限り、原則屋内禁煙となる。中小企業や個人営業の店の喫煙室設置には都の補助金や国の助成金があるが、費用がかかることなどから設置を決めた例は少ない。禁煙店が一気に広がりそうだ。

「喫煙所を設置した後は家族連れの客も増えた」。焼き鳥小太郎(東京都八王子市)の蓑輪雅治社長は、19年3月に八王子市の店に喫煙所を設置した効果を強調する。設置費用は約90万円で、国の助成金を活用した。

最近はたばこを吸わない客の割合が増え、客層を変えたいという狙いもあった。約60席のうち3席分を喫煙室のスペースに充てた。「設置当初は客足は減ったが、徐々に戻ってきている。世の中の流れだ」と割り切る。

一方、串揚げ店のトントン(同立川市)は夏に立川商工会議所を通じて、喫煙室設置について工事業者に相談したが、100万円強との回答に尻込みした。客の約4割が喫煙者でグループで来てくれる場合が多い。森光真史代表は「分煙施設をつくれる大手とは資金力の差がある。悩ましいところだ」と頭を抱える。

国の改正健康増進法は原則屋内禁煙を定めるが、20年4月の全面施行後も既存店舗で客席面積100平方メートル以下などの条件を満たす中小企業、個人営業の飲食店は経過措置で現在の喫煙の仕組みを続けられる。都の条例は同法に上乗せして規制を厳しくし、100平方メートル以下でも従業員を雇用していれば喫煙室を設ける必要がある。

実際に設置に踏み切る例は少ないようだ。飲食店の場合、国では最大3分の2、都では国より手厚い同10分の9の費用の支援を受けられるが、都が補助金申請を受け付けた件数は宿泊施設も含め数十件にとどまる。

都観光部は「費用負担以外に座席が減り、工事期間に営業できなくなるのも原因ではないか」とみる。都の補助金は600件の利用を想定している。審査や工事に必要な期間から逆算すると、20年1月までには申請が必要というが、動きは鈍いままだ。

東京都商工会連合会が飲食店などの事業者に9月に実施した調査の中間集計によると、喫煙室を設けないと答えたのは約7割だ。施行を機に都内の飲食店でも「禁煙化」が進むとの見方は根強い。

「たばこのためにお金はかけられない。法令で決めてくれれば影響は出ないのではないか」。中華料理店の一翠(同東村山市)は、条例施行後は店内を禁煙にする方針だ。今でも土日に吸わない人が多い場合は個室を禁煙にしているが、小島佐知子店長は「常連客も理解してくれる」と、喫煙マナーの広がりを感じているという。


居酒屋キッチンBLACK POT(同立川市)は家族経営で従業員がおらず、条例施行後は喫煙可の店にする方針だ。一方で、11月から水曜日昼のみだった「禁煙デー」を水・土曜日の終日に広げた。脇坂久仁洋店長も「喫煙率は徐々に下がっている。若いカップルの来客が増えた」と話す。

脇坂店長が理事を務める生活衛生同業組合では、条例への対応が理事会で頻繁に話題に上がる。「家族経営の店以外は禁煙やむなしとの見方が強い」という。