新型コロナがあぶり出した喫煙リスク

 日経ビジネス https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00108/00083/

喫煙によって新型コロナへの感染・重篤化リスクが高まることが分かった。生活者の健康意識がかつてなく高まった新常態において、店舗や一般企業の喫煙対策が喫緊の課題になっている。

 6月12日、東京都の小池百合子知事が2期目を目指し、7月5日の都知事選に出馬することを表明した。同日自身のフェイスブックでは、「4年前、崖から飛び降りる決意で都知事選挙に挑戦し、(中略)受動喫煙対策、新型コロナウイルス対策など、人に焦点を当てた政策に重点的に取り組んでまいりました」と、1期目の実績を強調した。

 日本では受動喫煙が原因の疾病によって年間1万5000人が死亡しているとされる。さらに世界各国で、喫煙によって新型コロナウイルスに感染したり、重篤化したりするリスクが高まるとする研究結果が報告されている。

 受動喫煙対策で世界の主要国に後れを取ってきた日本だが、世界の耳目が集まる東京五輪・パラリンピックの開催に間に合わせるために、政府は健康増進法を改正し、4月1日に全面施行した。公共施設や商業施設、オフィスなどで敷地内禁煙や屋内での原則禁煙を義務付ける内容だ。

 ただし、飲食店などに対しては、永田町の忖度(そんたく)の結果、飲食店の45%程度に当たる一定規模以上の店舗のみが規制の対象とされた。小池氏はこれに反発。従業員のいる店舗を幅広く規制対象に含める東京都独自の受動喫煙防止条例を4月1日に全面施行し、84%程度の飲食店で原則屋内禁煙を義務付けた。

 こうした流れを受けて、愛煙家のよりどころだった「喫茶室ルノアール」などを運営する銀座ルノアールも、4月1日からグループ全店舗で紙巻きたばこの喫煙を全面的に禁止した。改正法と都条例では、煙が漏れ出ない喫煙専用ブースを設ければ紙巻きたばこの利用が認められるが、従業員の健康に配慮して禁止に踏み切った。喫煙室での加熱式たばこの利用は認める。

 コロナ禍で生活者の健康意識が飛躍的に高まり、「3密」を生む喫煙所への風当たりも強まっている。喫煙所の使用を禁止してきた商業施設や宿泊施設の多くが、緊急事態宣言解除後も閉鎖を続けている。

「全面禁煙」の企業が拡大

 社員の健康配慮のために、職場からたばこを締め出す動きも加速している。帝国データバンクが3月に公表した「企業における喫煙に関する意識調査」では、回答した約1万社のうち26.2%が社内での喫煙を一切禁じる「全面禁煙」を導入していることが分かった。17年に実施した同調査に比べて4.1ポイント上昇した。

 国や自治体の受動喫煙規制による業績への影響については、「マイナスの影響がある」と回答した企業は、飲食店やホテルなどの業種でも、3割台にとどまった。喫煙者が少数派になっているためでもある。

 日本たばこ産業(JT)の「全国たばこ喫煙者率調査」では、2018年5月時点の日本人の喫煙者率は17.9%で、過去20年でほぼ半減した。JTの国内たばこ事業は低迷を続けており、19年12月期に3期連続の減収となった。1965年から半世紀以上続けてきた同調査も、2018年に打ち切っている。国内の2倍の売上収益を持つ海外たばこ事業も、先行きは厳しい。コロナ禍を受けて、世界的に喫煙リスクに関する議論が高まっているためだ。

 「未曽有の危機」とされる新型コロナによる死者がこれまでに世界でおよそ50万人であるのに対し、直接・間接の喫煙による死者は、世界で年間800万人に達すると推計される。喫煙がもたらす社会的リスクの大きさが、コロナ禍によって改めて浮き彫りになった。

 世界的な健康意識の高まりによって、軌道修正を迫られる例はたばこ以外にも広がりそうだ。世界保健機関(WHO)は18年に、アルコールの過剰摂取によって世界で年間300万人以上が死亡しているとする報告書を発表し、加盟国への対策を求めた。風当たりが強まる国内外の酒類大手はノンアルコール飲料事業の拡大に動き始めている。「健康」は従来から消費市場のキーワードだったが、ウィズコロナ時代の新常態ではその重みが格段に増すはずだ。