「健康経営」で企業を評価 コロナ下 選別の目安に

2020/7/18付 日経 https://www.nikkei.com/nkd/industry/article/?DisplayType=1&n_m_code=121&ng=DGKKZO61639190X10C20A7PPE000

従業員の健康維持・増進に配慮した経営をしているか。こうした観点から企業を評価する動きが広がっている。自社の従業員がいきいきと働いてこそ、持続的な成長につながるとの考えからだ。健康を支援する関連産業の市場拡大も見込まれる。コロナ禍が続くなかで「健康」が株式市場のテーマになりそうだ。

 

ハードに働くイメージが強かった日本電産が6月29日、「健康宣言」を発表、社員の健康増進に向けた施策に取り組む方針を表明した。まず2021年度中に日電産本体の敷地内で完全禁煙を目指すという。

同社の永守重信会長は宣言で社員の健康と働きがいについて「経営の重要な源泉」としたうえで、100年後も持続成長する企業を目指す考えを強調した。

4月には塩野義製薬が「絶煙宣言」を出し、24年にグループ会社の従業員のうち喫煙者をゼロにする目標を掲げた。現在1割強の喫煙者がいるが、問診などを通じ禁煙を確認する。

社員の健康を重視する施策や目標の設定は「健康経営」「健康投資」などと呼ばれ、株式市場でも言葉として定着しつつある。

「日電産の永守さんのように影響力のある人が健康について発言したのは大きい。コロナ禍で健康経営への関心はさらに高まるだろう」。早くから企業の健康経営に着目してきたレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長はこう話す。

「健康経営が本物かどうかが露呈する時期」とみる藤野社長は、いち早く大部分の社員を在宅勤務にしたGMOインターネットグループなどに注目する。

生産性や評価向上

なぜ健康を重視した経営が注目されるのか。企業価値への影響は大きく2つある(図A)。1つは社内の生産性の向上だ。欠勤や離職が減り、医療費の負担減も期待できる。働きやすいとの認識が広がれば、社員の採用でも有利に働く。

もう一つは社外からの評判が高まる効果だ。顧客や取引先からの信頼のほか、長期の企業価値を重視する投資家の評価も上がる。世界の潮流としてESG(環境・社会・企業統治)を重視した投資も広がる。健康経営は社会問題(S)や企業統治(G)にかかわるテーマで、アクサ生命保険では「健康経営はESGの一項目」と明記している。

健康という物差しを企業向け融資の一つの判断にする金融機関もある。日本政策投資銀行は健康経営格付に取り組む。経営層がきちんと関与する形で健康を維持する体制が整備されている企業は、金利などの条件が有利になるという。

社員の健康への投資が生む効果については、かつて米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が試算したことがある。それによると、1ドルの健康投資により、3ドル前後のリターンがあったという。

日本で健康経営が注目され始めたのは15年、経済産業省と東京証券取引所が「健康経営銘柄」(表B)を発表してからだ。健康に関する施策をアンケート調査し、その回答の分析のほか財務面の評価なども加えて銘柄を選出する。

今年3月には20年版の健康経営銘柄40社を公表。健康経営に熱心な企業を個人投資家が知るには、これを見るのが手っ取り早い。花王やTOTO、テルモなどは6年連続で選ばれ、小野薬品工業、住友電気工業などが新たに加わった。

株価動かす要因に

それ以外に健康経営優良法人としてホワイト500などを公表している。健康経営銘柄の予備軍とも言え、健康宣言をした日本電産もまずホワイト500への採用を目指す考えだ。

実際に健康経営と株価には関係があるのか。株価は様々な要因で動き見極めは難しいが、経産省の18年の分析では、健康経営度調査の点数が高い上位20%の企業群のリターンは東証株価指数を上回ったという。レオスの藤野氏は「コロナ発生後は明らかに健康経営銘柄のパフォーマンスがよかった」と指摘する。

経産省は6月、健康にかかわる投資の状況やその効果を見える化するため「健康投資管理会計ガイドライン」を策定した。健康投資額の集計方法や効果の分析手法などを示した。投資の手掛かり材料にもなるように、外部にわかりやすく公表する方法については、投資家や企業などとさらに協議を進めるという。

企業が健康経営を進めれば、関連産業も拡大する効果がある。メンタルヘルス対策、関連アプリなど健康保持・増進に働きかける産業の伸びが予想される。

投資信託にも健康応援と銘打った商品がある(グラフC)。ニッセイアセットマネジメントが運用する「ニッセイ健康応援ファンド」はオムロン、テルモなどを組み入れている。

同ファンドの基準価格はコロナショックで下がったものの、足元では回復している。分配金を再投資したベース(税引き前)の上昇率は過去3年で約20%と、配当込みの東証株価指数を上回っている。