飲食店「原則禁煙」に抜け穴? 健康増進法の例外(喫煙目的店)

2020/8/6 2:00 日経 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62220610T00C20A8I00000/

Case:85 先日、喫茶店に入ったところ、多くの席で客がタバコを吸っていました。4月からは飲食店が原則禁煙になったと聞いたことがあったので店員に確認したところ、「この店は『喫煙目的店』なので全席喫煙可能です」と言われました。どのような仕組みなのでしょうか。

相談者のご指摘の通り、2020年4月1日に改正健康増進法が施行され、飲食店については屋内は原則禁煙となりました。ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大に伴う営業自粛要請と時期が重なったため、気付かなかった方が多いかもしれません。

屋内での喫煙を認めつつ飲食を提供できるようにするための方法として、「Case:70 標識は確認した? 東京は国より厳しい飲食店禁煙条例」では、(1)喫煙専用室を設けた場合(2)加熱式たばこ喫煙室を設けた場合(3)既存かつ経営規模が小さい店舗(客席面積100平方メートル以下)という3つの例外を説明しました。ですが、実はもう1つ例外がありました。葉巻やたばこを楽しむことを主目的とする「喫煙目的店」です。

■たこ焼き店も「喫煙目的店」

 

「喫煙目的店」の代表的な例は、たばこ販売店に併設されているガラス張りの喫煙コーナーです。店には「喫煙目的店」のステッカーを貼る必要があります。喫煙目的店は簡単に言えば店全体を「たばこ屋」にするという趣旨で、飲食店が喫煙を可能にする目的で利用する可能性は低いと私は考えていました。

ところが、先日、とあるたこ焼き店の前を通ったときに大変驚きました。「喫煙目的店」のステッカーが貼られているではありませんか! 以前にこの店を利用したことがあるのですが、店内で食事ができる設備があり、たこ焼きのほかアルコール類や居酒屋にあるようなつまみの提供もあります。

その後、街中を注意して見てみると、「喫煙目的店」のステッカーを貼った喫茶店や焼鳥店、焼肉店、居酒屋などがあることに気づきました。なぜ、たこ焼き店や喫茶店が「喫煙目的店」になれるのでしょうか。

健康増進法が定める喫煙目的施設は、公衆喫煙所のような施設、たばこ店に併設された喫煙コーナーのような施設に加え、実は「施設利用者に対して対面によりたばこを販売し、施設の屋内の場所において喫煙をする場所を提供することを主たる目的とし、併せて設備を設けて客に飲食をさせる営業を行うもの」も認められています。

法律が本来想定していたのは、たばこ店の喫煙コーナーや、たばこをたしなみつつ飲食もできる「シガーバー」のような店舗であると思われます。「飲食」は、「通常主食と認められる食事を主として提供するものを除く」と定められています。おつまみ程度なら出してよいが、「主食」を出す店は喫煙目的店にできませんよ、ということで、ご飯やパスタなどの提供は原則的に認められていないのです。

■「主食」ルールに曖昧さ

 

ただし、厚生労働省発行の「改正健康増進法の施行に関するQ&A」によれば、自前で調理するものではなく、電子レンジで加熱するだけの「通常主食と認められる食事」を提供することについては、OKと解されているようです。実際、前述したたこ焼き店でも「焼きおにぎり」が提供されていました。このあたりのルールがやや曖昧なのは否めません。なお、喫煙目的店がランチ営業限定で主食を提供することも問題ないようです。

また、「対面販売」とは「製造たばこ小売販売業者の許可を得た者が営業をおこなう場所または出張販売の許可を受けた場所においてたばこを販売する者によって購入者に対して、たばこを販売すること」をいいます。そのため、喫煙目的店は製造たばこ小売販売業者を確保する必要があります。

店内に自販機を設置するだけではダメで、店主が買い置きしておいたたばこを販売する行為も対面販売にはなりません。しかしながら、販売は「出張販売」でもよいとされているので、お店自体が小売販売業者の許可を得る必要はありません。実際にインターネットで検索すると、喫煙目的店化を希望する飲食店に対し、たばこ小売販売業許可(特定小売販売業)登録免許の貸出業務を行っている業者が複数見受けられます。

20年4月1日以降、東京都では改正健康増進法に上乗せしたさらに厳しい基準を条例で課しています。客席面積100平方メートル以下であっても従業員を雇う飲食店は、費用をかけて喫煙専用室を設けない限り、全席禁煙となりました。条例が施行されれば都内の飲食店の84%が規制対象となるとも言われていました。

現状では喫煙目的店になれば、客席面積100平方メートル以下という制限もなく、店全体での喫煙が可能となり、家族以外の従業員の雇用も可能です。ただし、20歳未満のお客はランチであっても入れず、20歳未満の従業員を雇うこともできません。

たこ焼き店や喫茶店などが「喫煙目的店」になるのは普段の言葉の意味からは離れており、違和感を覚える人が多いと思います。法律で当初想定していた形態とは異なるようにも思えますが、要件を充足している以上、現行法上は適法ということになるのでしょう。

喫煙目的店は必ずそれを明示するステッカーが貼られています。残念ながら、私を含めて、たばこが嫌いな人は表示をよく見てから入店するほかなさそうです。

参考:大阪府「喫煙目的施設」の要件 http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/34373/00000000/mokuteki.pdf

参考:飲食店「原則禁煙」に抜け穴 健康増進法の例外⇒喫煙目的店