おもてなし支えた運営力 「世界の人集う都市」道半ば

Tokyo2020から次代へ④  受動喫煙対策が進み、街からたばこの煙が減った…

2021年9月10日 2:00 日経 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD0258Q0S1A900C2000000/ 

 

ボランティアの細やかな気遣い、選手村の衛生管理、円滑な輸送。東京五輪・パラリンピックは国内の分断を招いた一方で、海外の選手やメディアからは総じて好評だった。「開催に尽力した人々に金メダルを」(オーストラリアの選手)などという賛辞もあった。

空港では自律走行の警備ロボットが登場し、高速道路では時間帯で料金を変えるロードプライシングが導入された。ピンポイントで暑さ指数を予測したり、観光を多言語で支援したりするアプリなどもあった。結果的に不要だったが、競技会場周辺の混雑を人工知能(AI)で予測し、警備員の配置や観客の誘導に生かす計画もあった。

今回の五輪が求めたのは東京という都市の高度な運営力だったのだろう。官民が連携して様々なデータを活用し、都市を安全かつ円滑に動かす新たな情報基盤、いわゆる「都市OS(基本ソフト)」を磨く取り組みだ。日本の強みである「おもてなし」を裏側で支えるシステムともいえる。

東京でもまもなく人口が本格的に減少に転じる。新型コロナウイルスが収まった後、にぎわいを取り戻すためには海外からヒトやカネ、情報などを呼び込む「国際交流都市」の基盤を強化する必要がある。

海外から観客だけでも100万人が訪れる予定だった五輪パラは新たな都市OSを実装し、今後の成長モデルを探るきっかけになるはずだった。

森記念財団都市戦略研究所の「世界の都市総合力ランキング」をみると、東京の「弱み」がわかる。世界の主要48都市のなかで2020年の東京の総合順位は3位だが、「移動の快適性」は34位にとどまる。渋滞が激しい点などが評価を下げた。ストレスなく移動できる環境を整えることは国際交流都市に欠かせない要素のひとつだ。

1964年の東京五輪は貧弱だった日本のインフラを世界水準に高めた。今回の五輪パラも再開発を加速させたうえ、地味ではあるが幾つかの変化を東京という街にもたらした。ひとつは駅や施設のバリアフリー化だ。大会の招致が決まって以降、エレベーターやスロープの設置、ホームドアの整備がかなり進んだ。

もうひとつは受動喫煙対策が進み、街からたばこの煙が減ったことだ。「五輪がなければ国より厳しい条例をつくることは難しかった」と都幹部は振り返る。

一方で、都が新設した6つの競技施設のうち、5つは赤字になる見通しだ。都市の質という点でも緑地の割合を示す「みどり率」は招致決定以降も低下しているし、防災や景観面で重要な無電柱化も世界水準に遠く及ばない。足元では医療提供体制が大きく揺らいでいる。

都市の運営力は東京の魅力のひとつだが、それだけで海外から企業やヒトが集まるわけではないだろう。明治大学の青山佾名誉教授は「大会運営は欧米で高く評価された」と指摘する一方で、東京の社会のあり方については疑問を呈する。「ニューヨークの市役所に行けば様々な国の人々が働いているが、都庁は日本人ばかり」。新たな成長モデルを確立するためにはまだまだ課題が多い。