コロナ下のたばこ増税 禁煙のオンライン診療広がりも

2021年9月17日 5:00 日経 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1485U0U1A910C2000000/?n_cid=NMAIL006_20210917_H

10月1日、たばこ税が増税となる。これを機に一部をのぞきほとんどの銘柄が値上げをする。たばこを巡っては、吸える場所も減っている。喫煙者には逆風だが、禁煙を考えている人にはひとつの契機になりそうだ。

増税は2018年10月から段階的に実施されてきた。紙巻きたばこは今回までで、1本あたり計3円(1箱60円)上がる。加熱式たばこは紙巻きより税負担が低かったこともあり、来年10月にも増税が続く。たばこ税の税収は、おおむね年2兆円。厳しい財政状況のなか大きな存在だ。

喫煙者の懐は厳しくなろう。日本たばこ産業(JT)では例えば、紙巻きたばこの主力「メビウス」が540円から580円になる。一連の増税前(18年9月)は440円、民営化で同社が誕生した1985年は200円(当時はマイルドセブン)だった。値上げには企業の取り分なども含まれる。喫煙者が減るなか収益を保つためだ。

 たばこを扱う店舗に張られた、たばこ値上げを告知する張り紙(東京都内)

喫煙環境の大きな変化

ここ数年、喫煙をとりまく環境は大きく変わった。まずは、他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙対策の強化だ。20年4月に「改正健康増進法」が全面施行され、事務所や飲食店などの屋内が原則禁煙となった。東京五輪・パラリンピックの開催がきっかけだ。

もう一つは、コロナ禍だ。喫煙室があっても閉鎖するケースもあり「吸える場所がない」という声は切実だろう。喫煙は、感染による重症化リスクのひとつにも挙げられている。

厚生労働省によると、習慣的に喫煙している人は19年、16.7%だった。この10年で6.7ポイント減少している。ただし「22年度に12%」という政府目標との差はなお大きい。この目標は「やめたい」と思っている人が全員やめた場合の値として算出したものだ。

企業の「健康経営」にも動き

保険による禁煙治療では20年度から、一部がオンライン診療でできるようになった。コロナ下の臨時的な措置として、一定の条件の下で初回からオンライン診療とすることも認められており、選択肢が広がる。今は一部の薬剤不足もあるが、保険外の禁煙支援を含め、より使いやすい仕組みづくりが進んでいくとみられる。

企業では「健康経営」の観点から、社員の禁煙支援を含めた独自の取り組みが目立つ。野村ホールディングスは10月から就業時間内を全面禁煙にする。自宅などで勤務する社員にも禁煙を求めるといい、注目を集めた。同様の取り組みはイオンやリコーなども手掛けており、広がりをみせている。

喫煙は個人の嗜好の問題でもあり、それ自体が禁じられているわけではない。一方で、健康被害の防止のために公的な規制をより厳しくすべきだとの声もある。価格面でみても日本は主要7カ国(G7)のなかで最も安い。英国やフランス、カナダでは1箱1000円を超える。

改正健康増進法は25年に見直しを検討することが決まっている。世界保健機関(WHO)の受動喫煙対策の格付けでは、日本は4段階の下から2番目だ。喫煙者の立場も踏まえつつ、受動喫煙防止がどこまで徹底されるか。今は紙巻きより規制が緩い加熱式についても研究を進め、科学的かつ冷静な議論をする必要があるだろう。