加熱式たばこ、リスク懸念広がる予感 規制甘く

がん社会を診る 東京大学特任教授 中川恵一

喫煙は発がん原因のトップで史上最悪の人災です。しかし、従来型の紙巻きたばこの販売量は、大きく減っています。昨年度の販売数量は、ピークだった1996年度の3割弱まで減少、2年連続で1000億本を下回りました。

一方で、紙巻きたばこから加熱式たばこへの移行が急速に進んでいます。日本たばこ協会によると、昨年度の国内のたばこ販売全体に占める加熱式のシェアは、はじめて3割を超えました。今や、日本人の1割以上が加熱式たばこを愛用しているとされます。

加熱式たばこは、葉たばこを燃やさずに加熱することで、ニコチンを含む蒸気を発生させます。煙が出ないため臭いが少ないのが特徴です。

しかし、その蒸気にはアセトアルデヒドなどの発がん物質や、依存症の原因となるニコチンなどが含まれています。世界保健機関(WHO)は、紙巻きたばこと同様の規制が必要との見解を示しており、米食品医薬品局(FDA)も「健康リスクが少ない」との見方を認めていません。

たった一つのがん細胞が発見できる大きさになるには20年といった長い時間が必要ですから、加熱式たばこの危険性を評価できるのはずっと先の話です。さらに、加熱式たばこのユーザーの多くが以前から喫煙しているため、加熱式たばこの影響を検証できるのは、次の世代になってからです。加熱式の健康リスクについて、たばこ会社が「煙に巻いた」説明を繰り返す余地があるのは、こうした理由があるためです。

あまり知られていませんが、日本は加熱式たばこの世界最大の市場です。英調査会社によると、日本で2020年に販売されたのは386億本で、2位のロシア(169億本)を大きく引き離します。

とくに、米フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)の「アイコス」は、2020年の日本の加熱式市場でシェア7割を占めています。PMIは10年以内に日本での紙巻きたばこの販売から撤退する予定です。

70歳以上の喫煙者では加熱式たばこのシェアは5%程度にすぎないなど、高齢層では、紙巻きたばこの愛好者がまだまだ多いのが実情です。しかし、20~40代では加熱式が約4割を占めています。紙巻き派の退場は時間の問題で、今後、加熱式のシェアはさらに増加すると思われます。

副流煙のない加熱式たばこですが、吸っている人が吐く呼気を周りの人が吸い込む「受動喫煙」はどうしても避けられません。

従来型と比べて規制が甘いこともあり、加熱式たばこによる受動喫煙が急速に増えています。大きな社会問題となる予感がします。