飲酒に高いがんリスク 米政府「たばこ並みの警告を」

更新  日経 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN032RZ0T00C25A1000000/

【ニューヨーク=西邨紘子】米保健福祉省(HHS)のマーシー医務総監は3日、アルコール飲料のラベルにがんリスクの警告を含めるよう勧告した。米国で飲酒がたばこ・肥満に次ぐ「予防可能ながんの原因」となっているにもかかわらず、消費者のリスクへの認識が低いとして、警鐘を鳴らした。

医務総監は米政府の公衆衛生策を統括する。警告表示の義務付けには米議会の承認が必要となる。業界の反対も予想され実現は不透明だが、飲酒規制を巡る議論に一石を投じそうだ。

同日、HHSが発表した報告書「アルコールとがんリスク」によると、米国では年間、約10万人がアルコール関連のがんにかかり、約2万人が死亡している。乳がんや口腔(こうくう)がん、咽頭がんなど少なくとも7種類のがんでは発症と飲酒との直接的な関連性が確認された。また、乳がんや口腔がんでは1日1杯以下の飲酒でもがんの発症リスクが高まることが分かっているという。

アルコールのがんリスクについて研究が進む一方、一般の認知は進まないでいる。2019年の米消費者調査で、アルコールのがんリスクについて「認識している」という回答は45%にとどまり、放射線(91%)やたばこ(89%)を大きく下回った。

マーシー医務総監は「アルコールに関連したがん死者は飲酒運転事故による年間の死者数である1万3500人を上回る」と指摘。報告書でたばこの健康リスクについての警告ラベルを前例とし、視覚的で目に付きやすいがんリスクの警告表示は「(一般への)認知向上や、行動変化を促す効果が高い」と勧告の理由を説明した。

米株式市場では3日、健康懸念による消費者のアルコール離れや、規制強化への懸念からアルコール飲料関連株が軒並み下落した。

従来、少量の飲酒は心血管疾患の予防など健康にメリットがあるとの考え方があった。だが、近年は少量でもアルコールが健康に悪影響を及ぼすとの研究結果が相次ぎ発表され、各国は推奨摂取量の見直しなどを迫られている。世界保健機関(WHO)は2022年、アルコールについて「安全な摂取量はない」とする指針を発表した

米食品医薬品局(FDA)は現在、適度な飲酒の量を女性で1日1杯、男性で2杯以下と定める。飲酒量の引き下げの議論は、業界の反対もあり棚上げとなっている。

マーシー医務総監の提言が実現する見通しは現時点で不透明だ。ただ、1月に就任を予定する次期大統領トランプ氏は飲酒をせず、HHSの次期長官に指名されたロバート・ケネディ・ジュニア氏も禁酒歴が長いとされる。

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