2025年1月27日 5:00 日経 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF075AG0X00C25A1000000/
大阪市は27日、市内全域で路上喫煙を禁止する条例を施行した。加熱式たばこも規制対象となり、違反した場合は過料1000円が徴収される。2025年国際博覧会(大阪・関西万博)に向け、国際観光都市にふさわしい環境美化を進める。喫煙所の拡充や訪日外国人(インバウンド)への対応が課題になる。
07年の条例制定以降、市は禁止地区を段階的に広げ、御堂筋やJR大阪駅の周辺地域など6エリアを指定。27日から市内全域の道路や公園など市が管理する公共の場所まで広げた。
指定喫煙所を新設120カ所、改修も合わせて計140カ所確保する目標を掲げ、新設の場合、民間事業者に1カ所あたり最大1000万円、改修には最大300万円を補助する事業を実施。24年度予算には約3億円を計上した。
20日に40カ所がオープンし、指定喫煙所は補助金を活用した約120カ所と市設置の約50カ所の計約170カ所となった。パチンコ店やカフェなどの喫煙所を市が認定する数も増やしているが、「アプリを使って喫煙所を探したり、たばこを吸うためわざわざカフェに入ったりしている。喫煙所が少ない」(会社員男性、30)との声があがる。
4月の万博開幕までに対応をさらに進め、全体で約330カ所を確保する方針だ。今後、全地球測位システム(GPS)による人流データを基に人通りの多い場所を割り出し、喫煙所の設置や指導員による見回りの効率化に生かす。市担当者は「繁華街のキタ・ミナミに限らず、包括的に路上喫煙対策を進めたい」と語る。
条例制定に詳しい近畿大学の村中洋介准教授は「周知には時間が掛かる。万博に合わせてということなら、少なくとも1年くらい前には市内全面喫煙をすべきだった」と指摘する。4月には大阪府の受動喫煙防止条例も全面施行され、原則屋内禁煙を義務付けられる店舗が広がる。
喫煙ルールをインバウンドにどう伝えるかも課題だ。万博では4〜10月の開催期間中に海外から350万人の来場を見込む。
02年に全国で初めて路上喫煙禁止条例を施行した東京都千代田区の秋葉原エリアでは、23年9月から24年3月の7カ月間の過料処分のうち、外国人違反者の割合は約45%を占めた。大阪市でも新型コロナウイルス禍前、多い年で過料徴収件数の約2割が外国人だった。
大阪市の横山英幸市長は24日、記者団に対し「ポスターやチラシ、デジタルサイネージなどで多言語の表記を進めている。大阪観光局の観光案内所や観光案内板、外国人向けフリーペーパーなどでも周知を行う」と話した。
現在、多言語をしゃべれる指導員はおらず、啓発ポスターやカードを示しながら呼びかけるしかない。ポスターは記述スペースも限られ、英語や中国語、韓国語以外に対応するのは難しい。より多言語に翻訳できる大阪市のホームページに誘導する方針だが、効果は未知数だ。
「外国人観光客は現地の人々を見て行動する。まずは市民への周知が重要」(村中氏)。今後、粘り強い取り組みが求められる。
2025年1月26日 yomiDr. https://www.yomiuri.co.jp/yomidr/article/20250126-OYT1T50038/
4月に開幕する大阪・関西万博に向け、大阪市内でから路上喫煙が条例で全面禁止となる。全面禁止は政令市では初めて。大阪市は規制強化に伴って公共喫煙所の設置も進めるが、先行する自治体と比べて態勢は整っていない。吸う場所が乏しいことでポイ捨てを心配する声が上がる。
路上喫煙の全面禁止は、松井一郎前市長が2022年3月に打ち出した。万博が「いのち」をテーマにしていることから、「開催理念に照らせば、市全域で禁止することが時代の要請だ」と表明した。
昨年3月の市議会で路上喫煙防止条例改正案が可決され、JR大阪駅周辺や御堂筋周辺など6エリアの禁止地区を市全域に拡大することが決まった。路上や公園などの公共スペースが対象だが、私有地は含まれない。違反した場合、過料1000円が科される。従来は紙巻きたばこだけが規制対象だったが、加熱式たばこも追加される。
横山英幸市長は「街の美化につながるし、たばこの煙が苦手だという人も多い。(市の魅力は)絶対にアップする」と強調する。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、22年の全国20政令市と東京都区部の喫煙率は北九州市(18・6%)、札幌市(18・2%)に次ぎ、大阪市が17・7%と3番目に高かった。東京都区部は13・7%だった。
大阪市は今後、違反者から過料を徴収する指導員らを現在の74人から100人に増員することを検討。一方で、市が指定する喫煙所を公設と民間で新たに120か所設置する計画を立てた。有識者らの諮問機関から、路上喫煙禁止に実効性を持たせるためには、分煙環境の確保が重要だとの指摘を受けたためだ。
民間に対しては23年4月から、「煙が周囲に流れない閉鎖型」「屋外開放型の場合は人通りから離れた場所」などを条件に募集し、原則として1か所最大1000万円を補助してきた。
今月27日時点で、目標を上回る約170か所(公設約50、民間約120)を確保し、既存の7か所と合わせて約180か所となる見込み。公設分の費用は閉鎖型が平均約2400万円、開放型が同約900万円。市は、パチンコ店にある喫煙所の無償開放などを合わせれば、計約310か所を確保できるとしている。
画像の拡大 大阪市が大阪城公園に設置している喫煙所(大阪市中央区で)
ただ、他の自治体と比べると、面積当たりの数は少ない。
14年7月から路上喫煙を全面禁止している東京都港区では、総面積20平方キロに対し、指定喫煙所は昨年8月時点で106か所と、1平方キロあたり5・3か所設置されている。一方、総面積が225平方キロと10倍超の大阪市は、同1・4か所にとどまる。
喫煙所のない大阪市西区の 靱 公園では22日、入り口や広場で立って喫煙する人の姿が見られた。
5歳と3歳の子どもを遊ばせていた30歳代の女性は「歩きたばこの火が子どもの顔に当たりそうになったり、煙の臭いが気になったりするので、全面禁止はありがたい」と話した。
一服していた50歳代の会社員男性は「社内に喫煙所はあるが狭く、使いづらい。全面禁煙になれば我慢して社内の喫煙所を使うが、どうしようもなければ外で吸うかも」と漏らした。
市議会で路上喫煙について取り上げてきた自民党市議団の福田武洋副幹事長は、喫煙所は一部地域に偏っており、住宅地などで「空白地帯」が生じていると指摘。「規制が先行し、受け皿が十分ではない。私有地の店舗前などに置かれた灰皿が迷惑になるからと撤去され、吸う場所がなくなった人が路上でポイ捨てをするのではないか」と懸念する。
東京・港区でも、喫煙所が整備されていない白金台などの住宅地で、ポイ捨てが問題になっているという。
横山市長は「場所の確保や維持管理を考えれば、喫煙所を際限なく設置することはかなわない」とした上で、「27日以降、実態を把握して必要な対策を検討していきたい」と話す。
急増する外国人観光客にルールをどう周知し、守ってもらうかも課題だ。
日本たばこ産業(JT)によると、米ワシントンや英ロンドン、仏パリなど世界の主要都市では、喫煙は屋内で規制されているものの、路上では禁止されていないという。
大阪市は27日からの路上喫煙全面禁止を知らせる動画をユーチューブに投稿し、英語や中国語、韓国語の字幕もつけた。大阪メトロの駅などでは、デジタルサイネージ(電子看板)で同様の広告を流している。