保険適用なるか、禁煙治療のオンライン診療

2019.11.18  日経BP https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/feature/00004/111500097/

 

 禁煙治療のオンライン診療は現在、保険適用になっていない。その理由の1つは、「エビデンスが不足していること」。医療情報科学に特化した研究を行う研究機関であるCureApp Institute 共同代表の佐竹晃太氏はそう指摘する。

 そこで同研究所は、禁煙治療におけるオンライン診療群と対面診療群による無作為化比較試験を実施。試験結果を、「第23回 遠隔医療学会学術大会」(2019年10月に開催)で発表した。

「通院が面倒」で治療脱落

 禁煙治療は、全国約1万7000施設の禁煙外来で年間20万~30万人が受診しているとされる。保険診療による標準禁煙治療プログラムは、3カ月間(12週間)にわたり計5回の外来診療を行う。ところが、3カ月時点で治療を中断・脱落してしまう人は65%にも上るとのデータがある。その最大の理由は、「通院が面倒」(佐竹氏)だからだ。

 この通院負担を軽減する一手として期待されるのが、オンライン診療。現在、オンライン診療による禁煙治療は行われてはいるが、自由診療の扱いだ。治療費は3カ月で約6万5000円。これが保険適用になれば2万円弱になる。

 オンライン診療が保険適用されれば、禁煙希望者にとってのハードルが下がり、治療を中断することなく禁煙を成功できる可能性が上がると佐竹氏は期待を寄せる。「保険診療として2回目以降はオンライン診療で良いならば、患者の利便性が高くなり、医療期間にとっては診療の効率化にもつながる」(同氏)。

試験の結果は…

 では、冒頭の試験結果はいかなるものだったのか。

 試験は2018年3~12月に実施。4カ所の医療機関の禁煙外来を受診するニコチン依存症患者を、オンライン診療群(58人)と対面診療(57人)の2群に無作為に割り付け、両群を比較した。

 対面診療群は5回とも外来で診療。オンライン診療群は初回のみ対面診療を行い、2回目以降の4回分はビデオチャットによるオンラインで診療を実施した。主要評価項目を治療開始後「9~12週時」の継続禁煙率とし、副次評価項目として「9~24週時」における継続禁煙率も調べた。

 両群とも標準禁煙治療プログラムに加え、CureAppのニコチン依存症治療用アプリ(ポータブル呼気一酸化炭素濃度測定IoTデバイス「COチェッカー」を含む)を使用した。COチェッカーを用いた理由は、治療期間中に禁煙を続けていることを客観的に評価する必要があり、オンライン診療の際に在宅で呼気一酸化炭素濃度を測定するためだ。

 禁煙外来で保険算定する場合、ニコチン依存症管理料を算定するが、その施設基準として呼気一酸化炭素濃度測定器を備えていることが示されている。禁煙治療ガイドラインでは、受診のたびに測定することとしている。これらの要件を満たすためにCOチェッカーを使用した。

厚生労働省への要望書の中に有効性エビデンスとして盛り込み

 この試験の結果は、主要評価項目の治療開始後9~12週時における継続禁煙継続率が、対面診療群78.9%に対し、オンライン診療群では81.0%となった。9~24週時における継続禁煙率は対面診療群が71.9%に対して、オンライン診療群が74.1%だった。

 この結果から、「オンライン診療による禁煙治療プログラムは、対面診療のそれと比較して臨床的に劣らないという結論を得た」。CureApp Institute 共同代表の野村章洋氏はこう述べる。

 佐竹氏はこの結果を受け、「禁煙治療のオンライン診療の保険適用に向けて重要なエビデンスになると考えている」とする。実際、今回発表した試験結果は、日本内科学会や日本呼吸器学会など30医学学会が参加する禁煙推進学術ネットワークが、2019年7月に厚生労働省へ提出した要望書の中に有効性エビデンスとして盛り込まれている。同要望書では、オンライン診療の算定要件に「ニコチン依存症管理料」を追加して対面診療と同様の診療報酬上の評価がなされるよう求めている。