チャンピックスなしでも禁煙外来は継続できる

2022/01/21 日経メディカル https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t337/202201/573559.html

バレニクリン(一般名チャンピックス)の出荷再開は、早くても2022年の後半以降──。一部の製品から発癌性のあるN-ニトロソバレニクリンが社内基準値を超えて検出されたため、ファイザーは20216月からバレニクリンの出荷を停止していたが、11月に「出荷再開の方針が定まるまでには相当の時間を要する」との見込みを発表した。出荷停止を受け、禁煙外来を休止する医療機関が相次ぐ中、出荷再開まで外来が止まれば、禁煙意欲のある患者が長期にわたって行き場を失うことになる。バレニクリンなしでの禁煙外来継続は可能なのか。日本禁煙学会理事長の作田学氏に話を聞いた。

──コロナ禍で禁煙治療を開始する患者は増えましたか。

作田 喫煙が新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを高めることから、禁煙治療を希望する患者は明らかに増えています。そんな状況にもかかわらず、禁煙外来の休止が続出し、学会にも「近場の禁煙外来はどこも受け入れてくれなかった。治療を続けている医療機関はないか」との問い合わせが頻繁に寄せられます。

──もう1つの医療用禁煙補助薬であるニコチネルTTS(ニコチンパッチ)も品薄が続いているようです。

作田 医療機関によっては、在庫が不足しているところもあると聞きます。ただし、ニコチネルTTSは出荷が止まっているわけではありませんから、いずれ問題なく使用できるようになるでしょう。OTCの禁煙補助薬(ニコチンパッチ、ニコチンガム)の流通に支障は出ていません。

──2021715日、日本禁煙学会は厚生労働省に「禁煙治療薬出荷停止に伴う保険診療対応について」との緊急要請をされています。

作田 禁煙治療を希望する喫煙者に対して、引き続き適切かつ迅速に対応するために、禁煙治療の保険適用に関して、ニコチン依存症管理料の算定可能期間の延長(同管理料は初回算定日から12週まで算定可能だが、バレニクリンの出荷停止で治療期間が長引く可能性も考えられるため、12週を超える場合も算定可とすることを求めている)、同管理料の再算定制限の緩和(初回算定日から1年間は再算定できない制限について、バレニクリンが使えないことを理由に禁煙治療を中断した患者などが、供給再開後すぐに治療を再開する可能性が考えられることから、初回算定日からの期間が1年未満の再開でも算定を制限しないことを求めている)、ニコチン依存症治療用アプリ(CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ)使用条件の見直しなどを求めました。現状では、ニコチン依存症治療用アプリはバレニクリンとの併用が前提となっており、せっかく使用できるツールがあるのに制限がかかってしまっているのはもったいないと感じています。

──その後、厚労省側の動きはありましたか。

作田 残念ながら、禁煙治療の保険適用に今のところ変更はなされていません。

──バレニクリンなしで、禁煙外来の運営を続ける方法はあるのでしょうか。

作田 バレニクリンを使わなくても禁煙外来は継続できますし、続けるべきです。バレニクリンは禁煙成功率を上昇させる有益なツールですが、禁煙に必須ではありません。実際、バレニクリンの登場以前は、バレニクリンを使わずに禁煙治療を行っていました。

 当学会は、2021918日に「療用禁煙補助薬欠品&品薄状況における外来禁煙治療の手引き 令和3年9月再改定版」を発表し、今回の事態に対応し得る方法を提案しています。ニコチネルTTSが使用できる場合は、患者の禁煙実施状況や希望にもよりますが、基本はニコチネルTTSを処方する方法をとります。ただし一般的に、禁煙成功率はバレニクリンの方がニコチネルTTSよりも高いとされているため、その旨は患者にきちんと説明した方がよいでしょう。

 ニコチネルTTSも使用不可という状況ならば、医療用禁煙補助薬を使わない禁煙治療を検討します。治療者が必要と判断すれば、OTCの禁煙補助薬使用を患者に勧めることも可能ですが、医療用禁煙補助薬なしの禁煙治療で基本となるのは、認知行動療法(CBT)をはじめとする心理療法です。スキルを習得した治療者が行えば、バレニクリンと同等の効果を期待できます。当学会の古株の会員は、その多くが心理療法を禁煙治療で実践しているので、バレニクリン出荷停止にもそれほど動揺せずに、外来を続けています。

 これまでは、初回から医療用禁煙補助薬の処方を行わない場合、「禁煙治療のための標準手順書」に準じていないとの理由でニコチン依存症管理料の保険請求が棄却されることもありました。しかし、バレニクリンの出荷停止に配慮して、20219月に公開された同手順書の第8.1版にて、「保険診療における禁煙治療で薬剤の使用は必須ではありません。薬剤を使用しなくても行動療法など、ニコチンの精神依存に対する治療を行うことは効果的であるため、積極的な治療に取り組んでください」という留意事項が追記され、禁煙補助薬を処方しない禁煙治療を行いやすくなりました。

 なお、医療用禁煙補助薬を使用できる状況でも、CBTなどの心理療法が患者の禁煙を助ける強力な手法であることは変わりません。特にバレニクリンの治療成功率は高いので、バレニクリンがあると、どうしても薬に頼ってしまいがちですが、本来は心理療法をうまく組み入れて治療すべきです。今回の出荷停止は、“バレニクリン頼み”を改める意味ではよい機会と言えるかもしれません。

──CBTの技術を身に付けるには、それなりの時間を要します。忙しい医師には対応が難しいケースもあるように感じます。

作田 看護師の協力を得ることをお勧めします。基本的に、禁煙外来は医師と看護師が中心となって運営していくものですから、医師か看護師のどちらかがCBTに詳しければ十分に対応できます。

 当学会が年23回程度開催している「禁煙治療セミナー」や、東京都看護協会による「卒煙サポーター研修」(当学会後援)では、CBTの知識にとどまらず、禁煙治療のスキルアップを目指すことが可能です。

──バレニクリン出荷停止で、禁煙外来の継続に頭を悩ませている医師へのメッセージをお聞かせください。

作田 禁煙する意欲はあるのに、禁煙外来休止で行き場を失っている患者のために、バレニクリンなしの禁煙治療に取り組んでいただきたいと思います。たとえ失敗しても、1年もすればバレニクリンが使えるようになるでしょうから、やり直しもききます。気負うことなく、一歩を踏み出してみてください。