2017年11月22日 西日本新聞・社説 https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/375107/
こんな甘い規制では、たばこを吸わない人の健康を守れるわけがない。受動喫煙防止対策を強化する健康増進法改正案のことだ。
厚生労働省が、喫煙可の例外措置を当初案から大幅に拡大した案を検討しているという。2020年の東京五輪・パラリンピックに間に合わせるため、緩やかな規制を求める自民党の意向を受け入れる格好となる。
当初案は医療施設や小中高校は敷地内禁煙、大学や官公庁は屋内禁煙とした。オフィスや飲食店も屋内禁煙が原則だが、喫煙室設置は許される。店舗面積30平方メートル以下の小規模なバーやスナックは規制対象外として喫煙を認めた。
厚労省が検討している新たな案は規制対象外の店舗面積を150平方メートル以下とするものだ。当初案から5倍の拡大になる。
大手チェーンの店舗では喫煙は認めないというが、大半の飲食店が喫煙可となる。受動喫煙対策を店側の裁量に委ねている現状の追認といわれても仕方あるまい。
なぜ規制を強めるのか。厚労省は、その原点を再認識すべきだ。
副流煙には大量の有害物質が含まれる。この煙を吸わされる受動喫煙はがんや脳卒中などのリスク要因となり、妊婦や幼児にも悪影響を及ぼす。受動喫煙に起因するとみられる死者は国内で年間1万5千人に上ると推計されている。
自民党は「吸う権利」を主張する。だが、「他人の健康を害さない」のが大前提であるのは言うまでもない。「分煙推進」の声もあるが、喫煙室を設けても受動喫煙を完全に防ぐことはできない。
海外では約50カ国が職場や飲食店など、不特定多数が出入りする施設の屋内喫煙を法律で禁止している。その大半が喫煙室設置による分煙を認めていない。
喫煙可の対象拡大は既存店舗の営業に与える影響に配慮した臨時措置というが、最終的な目標や工程表も判然としない。
当初案でさえ「国際的には甘い」と言われたのに、さらに後退するのか。少なくとも当初案に沿った法整備を強く求めたい。