たばこの煙を吸わされる受動喫煙の防止対策を強化する健康増進法改正に黄信号が点灯している。
法改正に向けて厚生労働省が示した強化案に、自民党内から「厳し過ぎる」と強い反発の声が上がっているためだ。
受動喫煙に起因する肺がんなどの死者は推計で毎年1万5千人に上るという。2020年東京五輪を控え、世界最低レベルと酷評される日本の防止対策を強化することは喫緊の課題であるはずだ。
厚労省案では、小中学校や病院は敷地内禁煙、大学や官公庁は屋内禁煙とする。オフィスや飲食店も屋内禁煙が原則だが、喫煙室の設置を認める。小規模なバーやスナックは規制対象外とされた。
これに対し、衆参約280人の自民党国会議員が参加する「たばこ議員連盟」が対案を示した。
学校や病院などにも喫煙室設置を認め、オフィスは規制の対象外とする。飲食店は禁煙、分煙、喫煙のいずれかを選んで、表示を義務付けるという。
喫煙室から煙の漏出を防ぐことは極めて難しい。接客する従業員の受動喫煙も避けられない。
このため、バーやオフィスも含め、人が集まる場を完全禁煙にすることが世界的な潮流である。
厚労省案ですら国際水準より緩い対策なのだ。そこからさらに後退した議連案では、非喫煙者の健康と権利を守ることはできないと言わざるを得ない。
「分煙先進国」を掲げる議連に集うのは愛煙家ばかりではない。背後にはたばこ業界や客離れを懸念する飲食業界の利害も絡む。
規制強化の影響が懸念される業界に対して、配慮や支援を検討する余地はあるだろう。だが、ことは国民の命と健康に関わる問題だ。国際的にも通用する議論が必要である。
安倍晋三首相は1月の施政方針演説で「受動喫煙対策の徹底」を国民に約束した。議連案でそれを実現できないことは明らかだ。「受動喫煙対策後進国」の汚名返上へ向けて、ここは首相が指導力を発揮すべき局面ではないか。