社説 受動喫煙対策 東京五輪に間に合うのか
2017年06月21日 10時35分 西日本新聞 https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/337075/
2020年東京五輪・パラリンピックまでに、実効性のある受動喫煙対策を講じることができるのか。本当に心配になってきた。
受動喫煙対策の強化を図る健康増進法改正案の国会提出が、秋以降に先送りされた。
飲食店の規制を巡って、国際水準に近づけたい厚生労働省と、喫煙可能な店を増やしたい自民党との折り合いがつかないためだ。
日本の対策は、世界保健機関(WHO)の4段階評価で最低ランクだ。厚労省が示した案でも1ランク上がるだけである。これ以上緩い規制では「対策」の名に値しないと言われても仕方あるまい。
厚労省案では、飲食店は原則禁煙だが、「分煙」のために喫煙室を設置できる。床面積30平方メートル以下の小規模なバーやスナックは例外として、喫煙を認める。
これに対し、自民党は例外を150平方メートル以下まで広げ、「喫煙可」などと店頭に表示して、喫煙を容認する案を示した。
居酒屋などの多くが喫煙可になる。仕事の付き合いなどで、意に反して喫煙店に入らざるを得ない人が続出するだろう。店の従業員の受動喫煙は防ぎようもない。
自民党案の背景には「禁煙になれば小さな店は廃業に追い込まれる」との飲食業界の懸念がある。
だが、店内禁煙化が必ずしも客離れにつながらないことは国内外の研究調査で示されている。
そもそも、政治が最優先で守るべきは、特定業界の既得権益ではなく、国民の健康ではないか。
受動喫煙が原因とされる肺がんなどの死者は、年間1万5千人に上ると推計されている。
がん対策推進協議会は、受動喫煙を「20年までにゼロにする」という目標を次のがん対策推進基本計画に明記するよう厚労省に求めた。対策は待ったなしだ。
たばこを吸うことは自由だが、他人に有害な煙を吸わせ、健康を害す権利は誰にもない。
繰り返すが、厚労省案でも緩い規制なのだ。政府と自民党は厚労省案を軸に改正案をまとめ、秋の臨時国会で成立させるべきだ。