社説 受動喫煙防止 都条例を「標準モデル」に
2018年07月04日 10時35分 西日本新聞社説 https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/429890/
国際オリンピック委員会(IOC)が掲げる「たばこのない五輪」の実現に向けた大きな一歩として歓迎したい。
東京都の受動喫煙防止条例が成立した。従業員を雇う飲食店は原則として屋内禁煙とする内容で、国会で審議中の健康増進法改正案より厳しい規制だ。
たばこを吸わない客だけでなく、飲食店で働く人の受動喫煙を防ぎ、健康を守るという方向性は高く評価できる。
条例は段階的に施行され、東京五輪・パラリンピックが開催される2020年の4月に全面施行される。
世界最大のスポーツの祭典を楽しむために東京に集う海外客は、日本各地を観光で訪れるだろう。開催都市の決断に、全国の自治体も続いてほしい。
国会の法改正案は自民党の意向を踏まえ、客席100平方メートル以下の既存店は例外的に喫煙を認める緩い規制となっている。
これに対し都条例は面積にかかわりなく従業員の有無で区分した。従業員を雇っていない飲食店は禁煙か喫煙を選べるが、雇っている店は禁煙とした。
学校や病院、行政機関は敷地内禁煙だ。子どもが出入りする幼稚園や保育所、小中高校は法改正案より踏み込んで、屋外の喫煙場所設置も認めない。
ただし、そんな厳しい都条例でも、飲食店には喫煙室の設置が認められる。
喫煙室による分煙を認めない「屋内完全禁煙」に踏み切った先進諸国に比べれば、まだ甘いという見方もあろう。まずは条例の実効性を高め、受動喫煙がまん延している現状を首都から変えていくことが肝要だ。
外部に煙が漏れるような喫煙室では、十分な分煙効果は期待できない。設置基準を厳格化する必要がある。
都内の飲食店の8割超に当たる約13万軒が、従業員を雇っているという。チェックに当たる保健所の体制強化は、喫緊の課題といえよう。
屋内の喫煙規制が厳しくなれば、路上喫煙が増える懸念がある。屋外公衆喫煙所の設置を進めるとともに、喫煙者にマナー順守を周知徹底することにも努めてほしい。
そもそも、受動喫煙防止は五輪のために取り組むわけではない。最大の目的は、国民の切実な健康被害を防ぐことにあることを忘れてはならない。
受動喫煙に起因する肺がんなどの死者は年間1万5千人に上るという推計もある。
甚大な被害を直視し、たばこの煙害から、非喫煙者の命と健康を守ることは、国や自治体の責務と考えるべきだ。都の条例が全国の「標準モデル」となることを期待したい。