<社説>受動喫煙対策の後退 ざる法にせず真の禁煙を

2017年11月19日 琉球新報 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-616130.html 

 

 国民の命や健康を守る役所とは到底思えない及び腰の対応だ。厚生労働省が受動喫煙対策として、当初掲げた案よりも大幅に後退した案を検討していることが分かった。

 厚労省が昨年提示した健康増進法の改正案は、喫煙可能な飲食店の面積が「30平方メートル以下」だった。自民党側からの反対を受け、「150平方メートル以下」にまで緩めた案に変質してしまった。
 妥協案に走ったのは、国民の健康をないがしろにしたものであり、厳しく指摘したい。
 政府は、東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年までに「受動喫煙のない社会を目指す」との目標を掲げている。国際オリンピック委員会(IOC)や世界保健機関(WHO)からの「たばこのない五輪」という国際的要請を受けたものだ。
 しかし、今回の厚労省案では目標達成には程遠くなる。飲食店内は「原則禁煙」をうたっているものの、抜け道を広げたからだ。
 新規開業や大手チェーン店を除いて、店舗面積が150平方メートル以下なら喫煙可能になる。東京都の場合、飲食店の7割以上が100平方メートル以下であり、150平方メートルだと、さらに多くの店が該当する。規制の網から大半が抜け落ちてしまうことになる。
 150平方メートルを超える店であっても、喫煙専用室を設置すれば喫煙を認める。これでは、ざる法としか言えない。
 受動喫煙の弊害は科学的にも立証済みだ。国立がん研究センターの推計では、肺がんや脳卒中などで国内で毎年1万5千人が死亡している。
 対策を急がないといけないが、厚労省が自民党のたばこ議員連盟などの反発に屈したことが、がん対策にも悪影響を及ぼしている。
 10月に閣議決定した「第3期がん対策推進基本計画」は、受動喫煙対策の健康増進法改正案がまとまらないため、「受動喫煙にさらされる人をゼロにする」との目標設定の明記を断念した。
 第2期計画では「22年度までに行政機関と医療機関は0%、家庭は3%、飲食店は15%に減らす」と記していただけに、明らかな尻すぼみだ。
 世界の潮流は公共の場での原則禁煙だ。学校や事業所、飲食店などでの屋内全面禁煙を法律で規定する国は約50カ国に上る。努力義務にとどまっている日本との差は大きい。
 ただでさえ取り組みが立ち遅れているのに、今回の厚労省案には疑問点が多い。全面禁煙にするのが本来の姿だ。
 政府は来年2月にも改正案をまとめ、通常国会への提出を目指す。だが、医師会や患者団体などの反対は根強い。拙速に陥らず、納得のいく国民的議論が必要だ。
 日本は04年に、屋内施設の完全禁煙化を含むWHOの「たばこ規制枠組み条約」を批准している。それに基づいた取り組みを速やかに進めるべきだ。国民の健康こそが最優先である。