加熱式たばこ、日本で増税報道に海外が戦々恐々のワケ

2017/10/13(金) 10:05配信 産経 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171013-00000500-san-bus_all 

 

 国の税制に影響力を持つ自民党の宮沢洋一税制調査会長が「加熱式たばこ」を増税する方針を示したことが、海外で波紋を呼んでいる。欧州では従来の紙巻きたばこより健康影響が少ないとされる加熱式は、むしろ税額を安くする傾向にある。世界売上高の9割以上を占める加熱式先進国の日本が、検討段階ながらその流れに逆行する方針を示したことは、海外たばこメーカーに大きな衝撃を与えているようだ。

 「In Japan, heated tobacco associated with greater risk of tax hike」

 9月23日。英文媒体「ニッケイ・エイジアン・レビュー」(電子版)にこんな見出しの記事が掲載された。日本語に訳すと「日本で加熱式たばこが増税される恐れ」といった内容だ。袖見出しには、「Finance Ministry seeks to raise levy before $2bn market grows」(財務省は加熱式たばこが20億ドル=約2250億円=市場に成長する前に課税しようとしている)と続く。

 「正直、この記事を一読したとき、かなり扇動的な報道だと感じた。あたかも増税の方針が決まったような内容だったから」。ある外資系たばこメーカーの幹部は明かす。実際、この報道に驚いた幹部は、報道直後に財務省や政府税調の幹部と接触。現状の検討状況など情報収集に追われた。

 そもそも宮沢氏が9月7日に産経新聞を含む報道各社のインタビューで示した方針の正確な文言はこうだ。「(加熱式は)紙巻きより税率が低い。(商品を出している)3社で実効税率が違っている問題があり、それなりの答えを年末までに出していかなければならないだろう」。一言も「増税する」とは明言していない。

 財務省や自民党税調も各たばこメーカーにはこれ以上の説明はしていないようで、ひとまずは納得した様子だ。結局、宮沢氏の発言後、日本の各紙や通信社は「加熱式たばこの増税を検討」といった見出しの記事を配信したため、そのまま海外メディアが拡大解釈して英訳したことが騒動の引き金になったようだ。とはいえ、加熱式の課税見直しに向けた議論が行われる方針で、加熱式を取り巻く環境が厳しくなるのは間違いない。

 現時点で国内のたばこ全体の売り上げに占める加熱式のシェアは約10%とされ、平成32年には30%に拡大するとの予測もある。加熱式普及の影響で、日本たばこ協会が発表した8月の紙巻きの販売本数は前年同月比13.1%、販売金額は12.9%それぞれ減少。こうした状況が続くと想定し、政府がたばこ税全体の減収を避けるため、過熱式を増税する可能性は極めて高い。

 通常の紙巻きは、葉タバコを燃やして煙を吸い込むが、加熱式は電気で葉を蒸して発生する蒸気を吸って香りを楽しむ。煙や灰が出ないため、臭いや火事の心配もないのが特徴だ。現在、日本たばこ産業(JT)、米フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)の3社が販売している。

 通常の紙巻きたばこは本数に応じて課税され、1箱440円(20本入り、税込み)の場合、たばこ税率は55.7%。対して、加熱式は現行法令では「パイプたばこ」に該当する。紙巻き1本のたばこ税率(12.244円)をそのまま課すことはできず、たばこ葉が詰められたスティックやカプセルの総重量に1グラム当たり12.244円を課している。加熱式は紙巻きに比べ軽いため、価格に占める税割合は低い。

 ただ、各社のスティックやカプセルの重さは異なるため、1箱当たりの値段は紙巻きとほぼ同じ(420~460円)だが、たばこ税率は異なる。JTのプルーム・テック(カプセル5個、7.5%)、BATのグロー(スティック20本、28.6%)、PMIのアイコス(同、41.8%)となり、最大6倍弱の差がある。宮沢氏が是正を示唆したのはまさにこの点だ。

 加熱式の市場シェアは、アイコスが80%、グローが15%、プルーム・テックが5%とされ、シェアが高い海外勢が加熱式の税制見直しに神経をとがらせている。だが、問題は税制だけではない。東京都は9月8日、公共施設や飲食店などを原則屋内禁煙とする罰則付きの条例を定める方針を発表。これとは別に、子供を受動喫煙から守るために喫煙者や保護者らに努力義務を課す条例案が月内に議員提案される見込みで、条例案では加熱式も規制の対象になっている。厚生労働省も2月には、加熱式を受動喫煙規制の対象外との見解を示していたが、3月に一転して規制対象としている。

 ただ、加熱式が健康に被害を及ぼさないことが証明されれば、規制や増税対象から外される可能性もある。現在、厚労省所管の研究機関が加熱式による受動喫煙被害の有無などを調べているが、「証明するのは困難で、結論が出る時間も読めない」(政府関係者)という。一方で、PMIは独自の調査で「健康への影響はかなり低い」と結論づけた。

 米食品医薬品局(FDA)は7月に喫煙者にリスクのより低い代替品(加熱式たばこなど)に切り替えるよう奨励する包括計画を発表するなど、海外での加熱式を取り巻く状況は好転している。

 たばこ各社はこうした論拠を武器に、日本政府に規制緩和を求めていく方針だが、一部の政治家や官僚は「ニコチンを含んでいる時点で加熱式でも健康に被害を及ぼすと考えるべきだ」と主張する。年末に向けた税制改正でも議論は一筋縄ではいかなそうだ。