国会議員にモクモク特権、いつの間にか規制緩和【政界徒然草】

2018.4.27 01:00  産経 https://www.sankei.com/premium/news/180427/prm1804270007-n1.html


 国会で受動喫煙の対策強化が議論されようとしている中、当の国会議事堂での対策の遅れを問題視する声が議員の間で強まっている。政府の健康増進法改正案が、最も厳しい規制の対象から国会議事堂を除外したことに「不公平で、筋が通らない」との批判が噴出。自らは“特権”を享受しつつ、民間に厳しい規制を強いることにどこまで理解が得られるか。

 「可及的速やかに外務省のビルそのものを全面的に禁煙にしたい」「電子たばこを含め、建物内は全面禁煙にする予定だ」

 河野太郎外相(55)は20日の記者会見で突如、外務省の建物内を全面禁煙にする方針を表明した。政府は受動喫煙対策を盛り込んだ健康増進法改正案を今国会に提出しているが、成立前に外務省は一部を先取りするようだ。5月の大型連休明けから実施するという。

 地方に目を転じても、法改正とは関係なく独自の受動喫煙対策を打ち出す自治体は少なくない。例えば奈良県生駒市は昨年10月1日から職員に喫煙後45分間のエレベーターの使用を禁止した。喫煙直後は吐く息からもたばこの臭いがするため、密閉空間での非喫煙者の“被害”を未然に食い止めるのが目的だ。


 生駒市役所は24年7月に庁舎内を禁煙としたが、庁舎地下の喫煙所で喫煙は可能だ。職員に対しては今年4月1日から喫煙所の利用可能時間を昼の休憩時間(1時間)のみに限定した。東京都も4月から庁舎内にあった喫煙スペースを来庁者向けを除き封鎖した。

 これらと比べると、国会議事堂の受動喫煙対策は進んでいるとは言い難い。国会議事堂の衆院側の現状はおおよそ次の通りだ。

 本会議場の入り口脇には2つの喫煙ブースが設置されている。本会議の最中も愛煙家議員が議場を抜け出し、一服するのは日常の光景だ。本会議前に自民党が議事日程を確認する代議士会を開く2階東側の控室では、後方に設置された灰皿の近くで喫煙者が集まって紫煙をくゆらせているが、分煙措置は特段ない。

 3階の自民党国対委員会の部屋も喫煙が可能で、会議中や会議後に部屋の扉が開くと廊下にたばこの臭いが漂ってくる。この廊下は国会見学者のコースに含まれており、校外学習や修学旅行の児童・生徒らがたばこの臭いの中、通行する状況は十分生じうる。

 健康増進法改正案が成立すると、国会議事堂内の受動喫煙対策も現状よりは強化されることになる。ただ、法案は行政機関や学校、病院などを最も厳しい「敷地内禁煙」の対象に指定する一方、国会議事堂は一段緩い「原則屋内禁煙」としている。

 霞が関の中央官庁は屋内はおろか屋外でも禁煙となるのに対し、すぐ近くの国会議事堂は喫煙専用室を設置すれば屋内でも喫煙が可能だ

 厚生労働省が昨年の段階で検討していた案は、国会議事堂も外務省などの役所も同等に規制する内容だった。具体的には「官公庁」を「屋内禁煙(喫煙専用室設置も不可)」の対象施設とし、国会議事堂も「立法府としての国会の公的な機能を発揮する施設として官公庁施設に該当する」(平成29年3月8日の衆院内閣委員会での厚労省答弁)とみなしていた。

 ところが、今年3月9日に国会に提出された改正案では「官公庁」の分類が消え、「行政機関」なる言葉が登場した。「行政機関」は中央省庁や都道府県庁、市役所など。「学校」「病院」「児童福祉施設」とともに「敷地内禁煙」に指定され、それ以外の事務所やホテルといった施設は、一段規制が緩い「原則屋内禁煙(喫煙専用室内でのみ喫煙可)」となった。

 立法機関である国会は後者に分類され、最も厳しい規制を免れることになる。厳しい規制を課す法案を審議、可決しようとする国会自身の規制が甘いのは道理が通らないのではないか。

 そのことを与党の厚労部会のメンバーに指摘すると、ある幹部(喫煙者)は「おっしゃる通り」と同意したが、「政府が提出する法案が国会をしばってよいのかという問題もある」と語った。三権分立のシステムの中で、行政が立法に口出しするのは越権行為に当たるという説明だ

 ただ、仮にそうだとしても、外務省や地方自治体の事例のように、法律とは無関係に自律的に受動喫煙防止対策を講じることは可能だろう。

 超党派の「受動喫煙防止法を実現する議員連盟」で幹事長を務める希望の党の松沢成文参院議員(60)も「民間を対象に新たな規制をかけるなら『まず隗(かい)より始めよ』で、国会から率先して禁煙の模範を示すべきだ」と批判する。同議連は5月にも、自民、公明両党を除く野党の案として受動喫煙防止法案を国会に提出し、国会議事堂の対策強化も含め政府案の修正を求めていく方針だ。

 自民党受動喫煙防止議員連盟(会長・山東昭子元参院副議長)も「法律をつくる国会は自らを正していく必要がある」との立場だ。山東氏ら議連メンバーは連休明けに衆参両院の議院運営委員長に対し、政府提出法案の速やかな審議と国会の自主的な受動喫煙防止対策強化を申し入れる予定だ。

国会内の常任委員長室で開かれた野党幹事長・書記局長会談。テーブル脇に灰皿が置かれているように現在は喫煙が可能だ=1月27日(斎藤良雄撮影)国会内の常任委員長室で開かれた野党幹事長・書記局長会談。テーブル脇に灰皿が置かれているように現在は喫煙が可能だ=2018/1月27日