受動喫煙防止、自室も制限 明石の分譲マンションで規約改訂

2023/5/25 11:30 産経 https://www.sankei.com/article/20230525-3AP5ND63CVKZLGQ5SQVTXKS5SU/ 

深刻な近隣トラブルに発展しかねない集合住宅での喫煙について、兵庫県明石市の分譲マンションが3月、受動喫煙防止を義務付けるよう管理規約を改訂した。新型コロナウイルス禍による在宅時間の増加などで喫煙トラブルが増える中、解決策の一つとして注目を集めそうだ。

平成21年に完成した総戸数32戸の12階建て分譲マンション。令和3年8月、居住者が管理会社に「隣家の喫煙で健康被害が発生している」と対応を求めた。管理会社は注意を促す文書を掲示、管理組合の理事を交えた当事者間の話し合いも行われたが、喫煙者側は「部屋の中で吸っている」と説明するなどしたという。

上階の居住者からも子供の健康影響を懸念する訴えがあり、管理組合が管理規約細則の改訂を提案、今年3月に成立した。喫煙禁止の場所をバルコニー(ベランダ)を含む共用部分全体に拡大し、室内での喫煙も念頭に「近隣に受動喫煙被害を与えること」を全般的に禁止する。賛同した住民の短大教授は「喫煙者にも、周囲に及ぼす影響を考えてもらうきっかけになる」と話す。

受動喫煙トラブルに詳しい岡本光樹弁護士によると、ベランダ喫煙による近隣への受動喫煙を不法行為とする判例があるが、居室内で不法行為が認められた例はない。今回の改訂は、居室内での喫煙であっても受動喫煙被害を与えることを禁止する内容で、岡本弁護士は「被害者側の説得力を増すものと期待できる。喫煙者側も、明らかな規約違反はしにくくなるのではないか」と評価した。

住み慣れた家 手放すケースも

集合住宅での喫煙トラブルは、自宅内というプライベート空間での振る舞いをめぐる問題だけに、深刻な人間関係の悪化にも発展しやすい。喫煙者側が回数を減らしたり加熱式たばこに変更したりして「十分に配慮した」と考えたとしても、被害者側は体調が回復せず、住み慣れた家を手放して引っ越すケースも少なくないという。

「うちが引っ越すのが最も合理的な選択だとも考えたが、そこでも同じことが起こるかもしれない。どこかで踏ん張って解決しなければいけないと思った」。兵庫県明石市の分譲マンションで受動喫煙を訴え、管理規約細則の改訂を提案した大学講師の女性は苦悩を打ち明けた。

女性によると、当初は窓を開けていなくても一日に何度もたばこの臭いが室内に漂い、そのたびに気分が悪く、喉や目が痛んだ。10代の長女も「たばこの臭いとともに肺に異物が入ったように息苦しくなり、頭痛がした」と話した。改訂後は改善されたが、女性は「また臭ってくるのではという不安感が残っている」という。

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受動喫煙に詳しい薗はじめ医師によると、受動喫煙症が慢性化すれば、煙を浴びていなくても女性のような症状が続くようになる。発がんの可能性もあり、「遺伝子の一部が損傷し、修復できなければがんになる。煙を浴びる量が少なくても起こり得るため、受動喫煙に安全なレベルはない」と指摘。国内では年間約1万5千人が受動喫煙によるがんや脳卒中などで死亡しているとの推計がある。

令和2年に全面施行された改正健康増進法では、多くの人が集まる施設は原則屋内禁煙となったが、居住空間内への規制はない。マンション管理士で建築士の田中義之さん(65)によると、多くの分譲マンションでは管理規約細則で共用部分が喫煙禁止とされているが、「バルコニーや自室換気扇下での喫煙を、どこまで制限できるかは難しい」。今回の規約細則の改訂については「バルコニーでの禁煙が明記され、専有部分も含めた受動喫煙被害に踏み込んだものになった」と指摘する。

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居室内禁煙をあらかじめ定めたマンションも登場している。東京都住宅供給公社は近年、専有部分も含め敷地内禁煙とする新築の賃貸マンション2棟を供給し、居住者から高い評価を得たという。公社は「環境志向や健康志向など多様化するニーズに対応するため、今後も禁煙物件を増やしていく」とする。

日本たばこ産業(JT)は民間企業や自治体に対し、分煙の手法などを無償で提案する「分煙コンサルティング」を行っているものの、マンション管理組合からの問い合わせはほとんどないという。IR広報部は「望まない受動喫煙に配慮したうえで、たばこを吸われる方、吸われない方が共存できる調和のある社会が望ましい」としている。


 

 

 

 

 

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