たばこによる超過死亡21万人 喫煙の真実

2023/6/3 06:00 産経 https://www.sankei.com/article/20230603-WSU2BKXZTBKDBJ6UKHBJE52O5E/?412445


 

たばこをめぐる最新のデータや知見をまとめた「たばこ対策の推進に役立つファクトシート(2021年版)」が今年、厚生労働科学研究の研究班によって公開された。たばこがなければ死ななくても済んだ死者数(超過死亡)は年間21万人にのぼり、経済損失・超過医療費は1兆5300億円、介護費用などを含めた総コストは年間1兆8千億円と推計されることなど、根拠をもって算出された数字を分かりやすく伝える。6月6日まで禁煙週間。

たばこがない世界なら

ファクトシートは過去に2013年版(5項目)と2015年版(6項目)が作成された。3回目となる今回の2021年版は11項目に増やし、国や自治体、企業などでたばこ対策を推進する際に活用してほしいとしている。

今回新たに加わった項目の一つが「たばこの超過死亡・超過医療費とは」。超過死亡は、「もし世の中にたばこがなかったら」と仮定し、たばこのある現状の死亡者数から、たばこがない世界の死亡者数を引いて算出する。

ファクトシートには、日本におけるたばこによる超過死亡数(2019年、感染症を含む)が年間21万2千人に上り、高血圧や高血糖、腎不全などさまざまな要因をしのいでワースト1位となったことを明記。肺がんやCOPD(慢性閉塞(へいそく)性肺疾患)だけでなく、虚血性心疾患や脳卒中、アルツハイマー型認知症などさまざまな病気による死亡にかかわっているとした。

また、同じように算出した超過医療費は、本人の喫煙によるものが1兆2千億円、周囲の人の受動喫煙が3300億円に。疾患に伴う介護のコストやたばこに起因する火災の費用などを含めるとさらに増大する。

日本の成人喫煙率は減少を続け、2019年時点で男性27・1%、女性7・6%。だが、超過死亡数は過去と比べて減っておらず、ファクトシートを取りまとめた公益社団法人「地域医療振興協会」ヘルスプロモーション研究センターの中村正和センター長は「喫煙による健康影響には20~30年のタイムラグがあるため、喫煙率の減少の効果は今後あらわれる」と推測。高齢化で医療費の増大が懸念される現状を踏まえ、「喫煙者が減ることは、今後の医療費を削減するための切り札になる」とした。

3割が加熱式たばこ

「加熱式たばこの規制強化」も今回加わった項目だ。加熱式たばこは、タバコの葉に熱を加えてニコチンなどを含んだエアロゾルを発生させる方式の新型たばこ。紙巻きたばこに比べ、ニコチン以外の主要な有害物質の摂取量を減らせる可能性があるとされる。

ファクトシートでは、2019年国民健康・栄養調査の結果から、喫煙者の約3割が加熱式たばこを使用し、特に男性では30~40代、女性では20~30代の喫煙者の4~5割が使用していると指摘。主要な有害物質は紙巻きたばこと比べて少ないが、「タバコの葉を加熱する製品特性から、発がん化学物質などの有害化学成分の種類は紙巻きたばこと同様、多種類に及ぶ」とした。

さらに「紙巻きたばこと比べて病気のリスクがどの程度減るかは明らかではない」「ニコチン依存症が継続し、使用中止が困難になる」「禁煙治療の選択を妨げる可能性がある」などの懸念を示し、「紙巻きたばこと同様の規制が望ましい」と結論付けた。

中村氏は「たばこ会社は『主要な有害物質が9割減っている』と広告するが、年間20万人以上が死亡する紙巻きたばことの比較であり、仮に9割減ったとしても2万人は死亡する商品だ」と説明。さらにたばこの影響について「暴露量ではなく年数を重ねることによって病気になる」とし、「加熱式たばこに切り替えても、ニコチン依存症は続く。いずれは足を洗うことが大切だ」と訴えた。

依存症下における幸福度

「アルコール依存症や薬物依存症に比べ、ニコチン依存症はマイナスイメージがなく、軽くみられている」と中村氏は懸念する。他の依存症のように日常生活に支障が出ることが少なく、社会生活を営むことが可能だからだ。

ただ、喫煙者の「幸福度」が非喫煙者に比べて有意に低いことも判明しているという。中村氏によると、喫煙でニコチンを摂取すると、快楽を生じさせるドーパミンが放出される。だが、いずれニコチンの受容体の感度が下がり、より多くのニコチンを求める依存状態になる。喫煙から30分でニコチンの血中濃度が半減するため、頻繁に吸い続けられない状況では、禁断症状と四六時中闘い続けなければならない。

通常、日常生活では誰かにほめられたり、美しい花を見たりといったささいなことでもドーパミンが放出され幸福感が高まるが、依存症下ではそうした仕組みがなくなり、ニコチン以外による小さな幸せが感じにくくなるという。「200万円の所得減と同じくらい、喫煙によって幸福感が減るとの報告もある」と中村氏。「たばこをやめれば人生のシナリオが変わり、健康という財産を得ることになる」と強調し、ニコチン依存症を断ち切るために禁煙外来に相談することを推奨している。