社説 受動喫煙対策 「骨抜き」で健康守れるか

2018年02月03日 07時58分 山陽新聞 http://www.sanyonews.jp/article/663716/1/?rct=shasetsu 

 

 受動喫煙による健康被害を防止する目的からすれば、大きな後退だと言わざるを得ない。海外の情勢からも後れを取ることになろう。

 厚生労働省が、新たな受動喫煙防止策を発表した。ファミリーレストランなど大手チェーン店や新規開業の飲食店は原則禁煙とする。喫煙は飲食ができない「喫煙専用室」を設置した場合のみ認める。増えている加熱式たばこについても規制の対象にする。

 病院や学校、大学、官公庁は原則敷地内禁煙とする。政府は2020年の東京五輪・パラリンピックまでの施行を目指し、3月にも健康増進法の改正案を国会に提出する予定だ。

 問題は、原則から外す「例外」の中身だ。経営規模の小さな既存店は店頭に「喫煙可」などと示すことを条件に、一定の面積以下の喫煙は認める。規模については、150平方メートル以下を軸に与党の自民党と調整しているという。

 この面積では、街中にあるレストランや居酒屋、喫茶店など飲食店の多くが例外になろう。東京都内の9割超の飲食店が対象になるとの調査もある。日本禁煙学会などが「全面禁煙からかけ離れており問題だ」と批判するのも当然であろう。

 当初の厚労省案は、30平方メートル以下のバーやスナックなどに限り例外的に喫煙可としていた。しかし、自民党が強く反対し、取りまとめは難航。結果的に厚労省が党に押し切られる形で決着した。

 たばこを吸わなくても煙を吸うだけで健康に悪影響がある受動喫煙に関心が高まり、規制が具体化する点は評価できても、ここまで骨抜きでは実効性に疑問符が付く。例外の縮小に向け、政府は科学的データなどに基づいて対策を練り直すべきである。

 厚労省の研究班は、受動喫煙によりがんなどで死亡する人は年間1万5千人と推計している。同省の別の推計でも、たばこが原因による病気の医療費が2014年度で1兆4900億円に上るとみており、患者数では喫煙者79万人に対し、受動喫煙が24万人もいた。

 これ以上、安易な規制の妥協はすべきでない。喫煙する権利は否定しないが、それは他人に害を与えないことが大前提だ。飲食店側にも客離れの不安はあろうが、経営の影響は少ないとの調査もある。働く従業員の受動喫煙も真剣に考えてあげたい。同時に喫煙者への禁煙指導にも力を入れる必要がある。

 世界保健機関(WHO)によると、公共の場所全てを屋内全面禁煙としている国は55カ国に及ぶという。このままでは「世界最低ランク」と指摘された日本の汚名を返上することは難しい。

 東京五輪にとどまらず、外国人観光客の急激な増加を考慮すれば、「国際基準」に近づけることが大切だ。国民や業界の理解を得ながら、対策を前に進めたい。