非喫煙者8割超でも、年1.5万人が「受動喫煙」で死亡! 飲食店の禁煙は誰が反対?

2018/6/17(日) 8:11配信 style.nikkei  https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180617-00010003-nikkeisty-bus_all

 

 他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙について、対策強化の取り組みが進んでいる。きっかけの一つとされる2020年東京五輪・パラリンピックが近づくが、焦点の飲食店は禁煙になるのか。飲食店での喫煙などが今後どうなるかについて、石鍋仁美編集委員に聞いた。

――どんな受動喫煙の対策があり、議論になりましたか。

 喫煙者の主流煙を、他人が副流煙として吸うのが受動喫煙です。ニコチンやタールといった有害物質は副流煙が主流煙の約3倍以上とされ、厚生労働省によると受動喫煙による肺がんや心臓疾患などで年1万5千人が亡くなっています。国民の健康に加え、受動喫煙に関する推計3千億円規模の医療費を減らすためにも重要な政策課題です。

 政府は3月、受動喫煙対策を事業者らに義務付ける健康増進法改正案を閣議決定し、今国会での成立を目指しています。飲食店は原則禁煙とし、罰則もありますが、議論を呼ぶのは「例外措置」です。客席面積100平方メートル以下などの既存店は、表示をすれば喫煙も認めるのです。厚労省の推計によると、55%の飲食店で例外規定が適用されることになります。

――どのような課題が残っていますか。

 実は、厚労省は飲食店も事務所などと同様、例外なしの禁煙を目指しました。しかし、たばこ産業や小規模の飲食業への影響を理由に、自民党内から反対論が続出したのです。厚労省は17年、店舗面積30平方メートル以下のバーやスナックなどをのぞく飲食店を原則禁煙とする「妥協案」を公表しました。ところが同案さえ自民の批判は強く、当初よりかなり後退したのです。

 がん患者団体や医師らは規制案の後退を批判しました。受動喫煙を避けたい人も、取引先や上司が「吸える店」を希望すれば拒否しにくいでしょう。今の案では、受動喫煙の影響が未解明の加熱式たばこも、喫煙室を設ければ吸えることになります。自民党には新規店の禁煙になお不満もあり、喫煙を巡る溝はなかなか埋まりません。

――当面、どんな流れになりそうですか。

 国際オリンピック委員会(IOC)は2010年、世界保健機関(WHO)と「たばこの煙のない五輪」推進で合意しています。以降の五輪開催地は、原則として屋内禁煙になりました。現行の日本は受動喫煙の対策を事業者の努力義務としており、WHOの4段階評価で最低です。厚労省が改正案の成立を急ぐのは、20年の五輪開催を控え、世界の視線もあるからでしょう。

 しかし改正案が成立し、東京五輪前に施行されても、WHOの評価は1ランクしか上がりません。わかりにくい規制に外国人旅行者は戸惑いそうです。日本たばこ産業(JT)の調査では17年、国内成人の喫煙率は18.2%と過去30年で半減しており、むしろ「全面禁煙」で集客に成功する飲食店が増えるかもしれません。

――五輪を開く東京の動きが注目されるようです。

 東京都は4月、罰則付きの受動喫煙防止条例案の骨子を公表しました。従業員を雇う飲食店は原則屋内禁煙にし、都内の飲食店の84%が規制対象になる見通しです。国は店の広さを基に規制しますが、都は面積に関係なく、従業員を雇っていたり子どもが出入りしたりする店が対象です。

 五輪を開く都市として規制を厳しくし、6月開会予定の都議会に提出、20年の全面施行を探ります。ただしたばこの煙を遮断するブースを設ければ喫煙を認め、設置費も助成します。国も都も海外に比べてなお規制は緩いという見方は消えません。

 一方、大阪府と大阪市も25年の国際博覧会(万博)誘致をにらみ、独自の条例を制定する考えを明らかにするなど国や都に続く動きも出てきています。国民の健康や嗜好、海外からの目、業界の利害などがからまりあっており、せめぎ合いはしばらく続きそうです

■ちょっとウンチク 分煙では効果は限定

 世界の50以上の国・地域が、人の集まる屋内での全面禁煙を立法化した。調査によれば飲食店経営への影響はないか、むしろプラスだという。日本で成人人口の8割を占める非喫煙者を、いかに受動喫煙から守るか。「飲食店も職場も分煙すればいいのでは」との議論がある。しかし実測によれば、ドアの開閉で煙がもれるなど、全面禁煙に比べ効果は劣るそうだ。

 服や家具に付着した成分を「第3の煙」ととらえ、その健康被害を研究する動きも始まった。政策が力関係よりデータで決まるべきだとしたら、方向性は明らかだ。残る問題はスピードだけともいえる。

 

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