塩崎恭久・厚労相に聞く(全文1)受動喫煙対策 自民党に譲らなかった理由

2017.07.05 11:00 The PAGE https://thepage.jp/detail/20170704-00000003-wordleaf 

 

 通常国会で法案提出が見送られた受動喫煙対策。厳格に屋内原則禁煙を打ち出す厚生労働省と、一定面積以下の飲食店は禁煙の規制対象外としたい自民党の交渉が決裂したためだ。提出に至らなかったことについて「塩崎恭久厚生労働相が意見を曲げなかったため」などの報道が相次いだ。THE PAGEは塩崎厚労相にインタビューし、受動喫煙対策について譲れない思いを聞いた。(インタビューは6月28日に実施)

なぜ譲らなかったのか

 ──今回、受動喫煙対策に関する法案の提出が通常国会では見送られた。なぜ今回は、厚労省案でなければだめという判断をしたのか。

 今回、1月の国会が始まって、総理から施政方針演説というのが通常国会であるんですね。その中で、受動喫煙対策の徹底という言葉があって、これは特にオリンピック、パラリンピック開催を控えてそういう意思表明があって、それで健康増進法の改正をするということになったわけです。

 実は、日本の受動喫煙対策というのは、過去14年間、建物を管理する人に対して受動喫煙対策をとってくださいという、努力義務で罰則がないような、そういうことでやってきたんです。ところが、14年たっても、オリンピックを目の前にしても、やはり受動喫煙の被害というのは減らずに、例えば、約1万5000人の方々が受動喫煙によって亡くなっているという科学的な推計もなされている。さらには、医療費もこの受動喫煙によって3000億円は余計にかかっているだろうといわれているわけです。

 したがって、科学的に証明をされているこの受動喫煙の被害は、やはり我々は例外なく、なくしていかなければいけないだろう。そういうことで私どもの案として、唯一の例外は、バー、スナックの30平米以下、ここに限っては1人、従業員なしで、お1人でカウンターでバーを経営されているぐらいのそういう広さのところだったらば、そもそも飲みに行くわけですから、妊娠されている方も多分行かないだろうし、子供は行かないだろうし、従業員がいなければ未成年もいないだろう。こういう理由でそこだけ例外にしていますけれども、それ以外は、原則建物内禁煙ということで、喫煙ルームはつくっていいということで、若干これは他の先進国などに比べると甘いのですけれども、そういうことでいくべきだということで。大事なことは、科学で被害が証明をされているときに、やはり対策は科学に基づいて行われなければいけない。

 例えば、感染症対策で人の命を守らなきゃいけないというときには、科学で証明をされている被害ですから、病気になって亡くなることから人を守るためには、やっぱり科学できちっとした感染症防護策を導入しますよね。それと同じことだと思いますので、やはり全く望まない受動喫煙の被害はなくさないといけない。私ども厚生労働省の案として出したものを、我々としては、少なくとも建物内原則禁煙、とこれを譲ることはできない。意見がそこについて、飲食店についてだけでしたけれども、うまくいかなかったと。こういうことなので、もっともっと議論をすべきなんだろうなと思います。

 

 ──どうしてここまで今の方針で推し進めようとされているのか、ご自身の思いや、エピソードを聞きたい

 まず第一には、オリンピック、パラリンピックというのは間違いなく2020年に来るわけです。ご存じのように、2010年にIOC国際オリンピック委員会とWHOの間で、たばこのないオリンピックというので合意をしています。

 たばこのないオリンピックで合意をして最初にきたのがロンドンのオリンピックでした。その次は、ソチ、冬季の。その次は、この間のブラジル、次は、もう韓国なんですが、黄色は屋内完全禁煙、で、このグリーンは、原則屋内禁煙で喫煙ルーム設置可というものなんですね。白は吸っていいですよというものなんです。このオリンピックの合意、WHOとのIOCとの合意ができた後のロンドン、ソチ、そしてリオ、いずれも完全禁煙でやってきました。

 次の冬季の平昌、ここも実は、問題になっているのは飲食店なんです。飲食店について例外を設けたらどうだといっているのが自民党案でありました。それも100平米以下ということなので、実は(都内の飲食店の)この85.7パーセント、アンケート調査でいくと白(喫煙可)になっちゃう、こういうことなので、合意前ですけれども、北京、バンクーバー、ここも完全建物内禁煙できていますから、こういうオリンピックの伝統をここで韓国の次に、85パーセント白(喫煙可)にしますかということがまずあって。

 目先の、きっかけの一つでありますけれども、重要なきっかけで、オリンピック、パラリンピックでたくさんの外国の方が来られて、外国では今までずっと禁煙でやってきた。そういうことを考えてみると、我々は、ここは、長年の伝統を日本が初めて破るということをやっていいのかどうか、やっぱりみんなで議論して答えを出さないといけないんじゃないかなと思うんですね。

 

 個人の感覚でいきますと、がんで亡くなる僕の周りの人というのは、結構同い年とかもっと若い人も、何人も亡くなっていますが、そういった人たちが非常にたばこに神経質であったということを、私は初当選ごろから十分意識をしてまいりました。

 実は、私の地元の小学生からお手紙をもらいました。そのお手紙には、おばあちゃんが食べ物屋さんを経営しているけれども、お客さんもとてもいい人なんだけど、一つ心配があると。お客さんがたばこをたくさん吸うので、おばあちゃんが肺がんになっちゃうんじゃないかと。塩崎さん、今、たばこを吸える場所を限定しようとされているけれども、オリンピックを開催した国で、喫煙を禁止して売り上げが下がったというところはないそうですね、ということまで書いてきてくれて。ですから、売り上げが下がらないなら、おばあちゃんががんにならないようにしてください、頑張ってくださいって応援のお手紙を私はもらったのです。

 いつも私はこうやって入れているのですね、ポケットの中に。この原稿用紙にこうやってずっと。名前ちょっと消してあるけれども、こういう応援団が小学校5年生の女の子ですけれども、いて、私はこの間会いに行ってきました。

 そんなこともあって、やはり売り上げが下がるんじゃないかと飲食店の方々が心配されているけれども、海外での経験を見てみると、規制を導入する前と後では、ほんとんど何も変わっていないし、むしろ8割以上の人がもう今たばこをお吸いにならないので、むしろ家族連れなど、今までたばこで敬遠していた人たちが来るようになるので、場所によっては、お客さんが増えたというところもあるそうです。ただ、心配されている人に、心配するなといってもなかなか難しいので、やはりここは粘り強くご説明をしていかなきゃいけないんじゃないかなと思います。

【インタビュー】塩崎恭久・厚労相に聞く(全文2)へ続く