時評 受動喫煙法規制 無煙の飲食店を増やせ
受動喫煙を防ぐ法規制の動きが節目を迎えた。健康増進法改正案が衆院を通過し、今国会で成立する見通しだ。一方、国の法案より厳しい東京都の受動喫煙防止条例が都議会で可決、成立した。
これで2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて受動喫煙対策強化の法的枠組みはそろった。日本の社会は受動喫煙防止を徹底していく転換点に立つ。人々の健康を守る当たり前の社会変革につなげたい。
争点となったのは、禁煙が最も立ち遅れ、望まぬ受動喫煙の被害が多い飲食店への規制だった。厚生労働省の当初案は、例外として喫煙を認める店を30平方メートル以下のバーやスナックに限っていたが、自民党内の反対が強く、客席面積が100平方メートル以下の個人営業か資本金5千万円以下の店で「喫煙」と表示すれば、吸えるように緩めた。
これでは規制対象の飲食店は45%にとどまる。例外が多過ぎ、有効な受動喫煙防止から程遠い。共同通信の世論調査では過半数の人が「不十分」とした。
ただ、未成年者が出入りする場合は喫煙不可。新規開店は原則禁煙で、対策が段階的に進む仕組みにはなっている。
日本の受動喫煙規制は世界保健機関(WHO)の4段階の評価で最低レベルにとどまっていた。政府の改正案では1ランク改善されるにすぎず、屋内全面禁煙が主流の国際標準に比べて骨抜きの規制と言える。
国際オリンピック委員会とWHOは「たばこのない五輪」を推進する。近年の五輪は屋内全面禁煙の環境で開催されてきた。20年の東京五輪もこの目標は実現すべきだ。開催都市の東京の条例は、面積にかかわらず従業員を雇っている飲食店を原則禁煙とする。客だけでなく、従業員を守る視点は評価できる。
最小限度の国の法律に上乗せする形で東京都条例が適用、都内の飲食店の84%が規制対象になる。同様の条例は千葉市なども検討している。国会の立法を超えた条例は注目に値する。
病院や学校、官公庁の敷地内禁煙、職場やホテルの屋内禁煙も法改正に組み込まれた。罰則付きの全面施行は20年4月だが、他人に受動喫煙をさせない規範として定着させたい。
最近普及しだした加熱式たばこは健康被害のデータ不足を理由に、専用室での飲食と喫煙を認めており、課題が残る。
受動喫煙による死亡は日本で年間約1万5千人と推定される。病気も含めると被害は膨大だ。これを減らしていくのは喫煙者の義務でもある。