受動喫煙防止 屋内の全面禁煙を広げよ 
徳島新聞 社説 2016年12月4日
http://www.topics.or.jp/editorial/news/2016/12/news_14808128595631.html


 他人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙の健康被害は、極めて深刻だ。

 国内の防止策は遅れており、政府は2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、法整備を柱とする対策強化に乗り出した。受動喫煙防止の徹底を急ぐ必要があるのは言うまでもない。

 厚生労働省が10月にまとめた対策案は、病院や学校を敷地内禁煙、官公庁や社会福祉施設を建物内禁煙とした。飲食店やホテル、職場の事務所などは原則禁煙としつつ、喫煙室の設置を認めている。

 03年施行の健康増進法は受動喫煙対策を努力義務にとどめていた。今回は増進法の改正か新法の制定により、施設管理者とともに喫煙者にも罰則を適用する方針だ。

 近年の五輪開催地では、受動喫煙を防ぐため罰金を科す法整備が定着している。病院や飲食店などの公共の場所を全面禁煙とする法律があるのは49カ国で、日本の対策は世界保健機関(WHO)から「世界最低レベル」と批判されている。実効性の高い対策としなければならない。

 問題は、例外的に喫煙室を設けられる場所が多いことだ。喫煙室は、出入りする際に煙が漏れるのを完全に防ぐのが難しい。屋内全面禁煙をできる限り広げなければ、抜本的な対策とは言えまい。

 国立がん研究センターは今年、受動喫煙による肺がんのリスクは受動喫煙がない場合の1・3倍と発表した。肺がんに対する受動喫煙のリスク評価も「ほぼ確実」から「確実」に引き上げた。

 15年ぶりに改定された国の「たばこ白書」では、受動喫煙による死者は年間1万5千人に上ると指摘。肺がんだけでなく心筋梗塞や脳卒中、小児ぜんそくなども、因果関係があり、最もリスクの高い「レベル1」と判定した。

 喫煙と健康被害の因果関係は、科学的な根拠に基づき明白となっており、最近は喫煙者を採用しない方針を打ち出す企業もある。

 そんな中、徳島県内で由々しき事態が発覚した。05年に公立病院で初めて敷地内禁煙を導入した県立中央病院で、医師や職員が倉庫の裏で隠れて喫煙していた。患者に迷惑が掛かりにくいとして、病院幹部も黙認していたというから驚くばかりだ。意識改革の徹底が求められる。

 厚労省は「(受動喫煙のない)スモークフリー社会に向けた歴史的な一歩を踏み出す」とし、法案を来年の通常国会に提出する構えだ。ただ、飲食業の団体からは業績悪化の懸念などを理由に反発の声が強まっている。

 例外を増やせば対策が骨抜きになりかねない。関係団体との調整では、国民の健康第一を最優先にして広く理解を求めていくべきだ。

 喫煙者の中には、たばこ依存から抜け出せない人も多い。禁煙外来の受診を促し、職場や学校の禁煙教育を充実させるといった施策にも力を注いでもらいたい。