2017年11月19日 東京新聞 http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201711/CK2017111902000132.html
二〇二〇年東京五輪・パラリンピックに向け、受動喫煙の防止策を強化する健康増進法改正案が、来年の通常国会に提出される見通しだ。ところが、法案審議の場となる国会議事堂は、禁煙どころか分煙さえ徹底されていない。「喫煙自由」ともいえる状況で、社会の流れと懸け離れている。
「臭くて煙くてしんどいですが吸っちゃいけない決まりじゃないからなんとも言えない…。(中略)カルチャーギャップですね」
自民党の小野田紀美(きみ)参院議員は今月一日、自身のツイッター上で「煙害」を発信した。ふだんは自民党代議士会が開かれる衆院の控室で、両院議員総会に出席した際の感想をつづった投稿。閲覧者が共感を表す「いいね」とリツイート(引用)は計八百件を超えた。
その控室。安倍晋三首相が所信表明演説をした十七日の衆院本会議に先立つ代議士会では、後方に置かれた灰皿の近くで複数の議員がたばこを吸い、白い煙が漂っていた。煙を遮る間仕切りや空気清浄器はないが、衆院の自民党事務局は「後方で吸ってもらっているので分煙だ」と説明した。控室を出ると、近くに喫煙ブースがある。
衆院の事務局によると、本館は本会議場や委員会室、廊下は禁煙。喫煙者は廊下の隅に設置された喫煙ブースを利用する。
しかし、各党に割り当てた議員控室を禁煙にするかどうかは、それぞれが自由に決められる。委員会の運営を各党が協議する理事会室の扱いも、各委員長の判断次第だ。
喫煙を認める理由について、ベテランの自民党衆院議員は「国会運営について野党側と協議する時、たばこを吸いながらの方が互いに集中できる」と説明する。その一方で、公明党の衆院議員は「自民党の控室は煙たいので嫌だ」との本音を漏らす。
本紙の取材では、自民党以外では立憲民主、公明、共産、社民が明確に「禁煙」と回答するなど禁煙派が多い。だが、禁煙の徹底は比較的緩やかで「会議は禁煙だが、議員個人が控室で喫煙しても止めない」という会派もある。
たばこ対策に詳しい産業医科大の大和浩教授は自民党代議士会の「分煙」について「受動喫煙がない状態でなければ意味がない」と指摘。「国会には妊娠・出産を経験する女性議員や、病気治療中の人もいる。ここまで喫煙が自由な場は珍しく、国会の意識の遅れが法整備の遅れにつながっている」と話した。
受動喫煙防止を強化する健康増進法改正案を巡り、厚生労働省は昨年十月、公共施設に限らず飲食店も、喫煙室を除いて原則「屋内禁煙」とし、違反者には罰則を科す案をまとめた。自民党が反発したため、三月には店舗面積が三十平方メートル以下のバーやスナックなどでは喫煙を例外的に認める修正案を提示したが、理解は得られず、政府は今年の通常国会への法案提出を断念した。
同省は今月、新たな案をまとめ、自民党と調整中。家族連れらが利用する飲食店内は原則禁煙だが店舗面積百五十平方メートル以下は喫煙可とできる。官公庁は屋内禁煙、医療施設や小中高校は敷地内禁煙とする見通し。厚労省は来春にも国会で法案を成立させたい考え。二〇二〇年四月からの施行を検討している。
首都圏では、同省案より厳しい対策を進める自治体もある。
東京都は九月、飲食店など多数の人が利用する施設を原則屋内禁煙とする罰則付きの受動喫煙防止条例の素案を公表した。神奈川県では一〇年、学校や病院、飲食店などに禁煙または完全分煙を義務付け、違反した場合は罰則を科す全国初の受動喫煙防止条例が施行された。
自民党代議士会が開かれる衆院控室。喫煙する議員の姿も=17日、国会で