2018年8月8日 東京新聞夕刊 http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201808/CK2018080802000258.html
たばこの害による二〇一五年度の総損失額は医療費を含めて二兆五百億円に上ることが八日、厚生労働省研究班の推計で分かった。たばこが原因で病気になり、そのために生じた介護費用は二千六百億円で、火災による損失は九百八十億円だったことも判明した。
一四年度も直接喫煙や受動喫煙による医療費を算出していたが、一五年度は介護や火災に関する費用を加えた。研究班の五十嵐中(あたる)・東京大特任准教授は「たばこの損失は医療費だけでなく、介護など多くの面に影響が及ぶことが改めて分かった」とし、さらなる対策が必要だとしている。
推計は、厚労省の検討会がたばこと病気の因果関係が「十分ある」、もしくは「示唆される」と判定したがんや脳卒中、心筋梗塞、認知症の治療で生じた医療費を国の統計資料を基に分析。こうした病気に伴って必要になった介護費用や、たばこが原因で起きた火災の消防費用、吸い殻の処理などの清掃費用も算出した。
最も多かったのは、喫煙者の医療費一兆二千六百億円で、損失額の半分以上を占めた。中でもがんの医療費は五千億円を超えた。受動喫煙が原因の医療費は三千三百億円で、多くを占めたのは脳血管疾患だった。歯の治療費には一千億円かかっていた。
介護費用は男性で千七百八十億円、女性で八百四十億円に上った。原因となった病気別でみると、認知症が男女合わせて七百八十億円と最も多く、次いで脳卒中などの脳血管疾患が約七百十五億円となった。
都道府県別では東京都が二千億円となるなど、人口の多い都市部で金額が膨らむ傾向があった。
一四年度は「因果関係が十分」とされる脳卒中やがんなどに絞って推計。喫煙で一兆一千七百億円、受動喫煙で三千二百億円だった。
<たばこ対策に詳しい産業医大の大和浩教授の話> たばこが健康に悪影響を与えているだけではなく、社会全体に大きな損失をもたらしていることを示した貴重な研究だ。喫煙はがんや心筋梗塞、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)だけでなく、介護の原因となる脳梗塞や認知症のリスクも高める。つまり医療費だけでなく介護費にも負荷をかけていることになる。また、たばこは火災の原因になるほか、ホテルや賃貸アパートでは部屋の壁紙を頻繁に替える必要が出てくるなど清掃費用も増大させる。より厳しい規制を考えるべきだ。
<たばこの健康リスク> 喫煙者が吸うたばこの煙には、発がん性物質が約70種類含まれているとされる。厚生労働省のたばこ白書は、喫煙で引き起こされる病気として肺がんや胃がんなどさまざまながんや脳卒中、歯周病、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患を列挙。また認知症の発症も、喫煙との因果関係が示唆されるとしている。受動喫煙で周りの人が吸い込む副流煙はニコチンなどの有害物質が主流煙の数倍も含まれている。受動喫煙は、乳幼児突然死症候群や子どものぜんそくの原因にもなる。