補助薬不足…でも禁煙できる! 心の依存 面接法で解消

2022年1月18日 10時06分  東京新聞 https://www.tokyo-np.co.jp/article/154848

 肺がんや慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)などの主な原因とされる喫煙。新型コロナウイルス感染時の重症化リスクも高めるとされるが、国内では禁煙治療に使われる医療用の補助薬が不足している。たばこに含まれるニコチンは依存性があり、本人の意志だけでやめるのは大変。そうした中、重要性が見直されているのが、専門家による面接指導だ。

 ニコチンは脳に作用し、快感をもたらすドーパミンを放出させる。喫煙が習慣になると、自分でドーパミンを分泌する能力が低下。ニコチン切れによるイライラや憂鬱(ゆううつ)などの禁断症状から逃れようと繰り返し吸うのが、ニコチン依存症だ。

 日本禁煙学会などによると、禁煙治療は補助薬と医療者による面接指導の両輪が基本。医療用の補助薬には、ニコチンを少量ずつ補って禁断症状を和らげる貼り薬や、成分がニコチンの代わりに脳内の組織と結びつき、喫煙の満足感が得られなくなる飲み薬がある。

 昨年六月に出荷が停止されたのは、成功率が六〜七割と高い飲み薬のバレニクリン(商品名・チャンピックス)。製造販売を担う米ファイザー社の海外出荷分の一部から発がん性物質が検出されたためで、再開は今年後半の見込みだ。この影響で需要が高まった貼り薬のニコチンパッチも品薄が続く。

 名古屋市南区の男性(45)はバレニクリンを服用し、昨年六月から一本も吸っていない。喫煙歴は二十年以上で「何度も挫折したのでうれしい」と話す。ただ効果が高いあまり、国内一万七千カ所の禁煙外来では二〇〇八年の承認以降、「バレニクリンありき」の傾向が強かったのが実情だ。

 薬不足を受け禁煙学会は同七月、新たな治療の手引を公開。処方箋なしで買える市販のニコチンパッチやガムに加え、細やかなカウンセリングを活用するよう医療者と患者に促した。

 刈谷病院(愛知県刈谷市)の精神科医で依存症治療に詳しい菅沼直樹さんによると、禁煙後一週間で体のニコチン依存はほぼ消え、禁断症状は次第に治まる。手ごわいのは「吸わないとストレスがたまる」「リラックスできない」といった精神的な依存だ。

 心の依存を解く方法の一つが面接法、リセット禁煙。藤田医科大客員教授で呼吸器科医の磯村毅さんが十五年以上前に考案した。一時間ほど患者と問答を繰り返し、喫煙のメカニズムを科学的に説明する。

 例えば「食後の一本がおいしい」という訴えには、「食事をしてもドーパミンの出が悪く、物足りなくなるから」と磯村さんは明快だ。「たばこはニコチン切れによるストレスにしか効かない」「そもそも吸わなければニコチン切れは起きない」など患者の「吸う理由」を順に否定する。菅沼さんによると面接直後から全く吸わない患者も。「たばこの利点と信じていたことが単なる思い込みと気づくことができる」と言う。

 禁煙学会理事で、愛知医科大准教授の谷口千枝さんは「朝起きて五分以内に吸う人は依存が強い可能性が高い」と強調する。厚生労働省によると、禁煙治療はスクリーニングテスト=表=で五つ以上当てはまるなどして依存症と診断されれば、十二週間で五回までなら面接だけでも公的医療保険の対象となる。
 学会はホームページで一定の講習、試験を受けた禁煙専門の指導者がいる施設を公開。まずは、こうした医師と看護師らがいる医療機関に問い合わせるといい。谷口さんは「薬がないとあきらめないで」と訴える。